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書を学ぶ

(1)「読まれる字」を意識

 「大きく太く書きましたが、どうでしょうか」。男子生徒が、書き上げた文字に込めた思いを説明する。「墨の色を部分的に変えてみたら」と、提案が返ってくる。

 11月30日、京都市北区の市立西賀茂中学校の図書室。大西麻理亜教諭(28)の3年の書写の授業では、生徒たちがお互いにアドバイスする。

 きっかけは、国語の授業だった。書いた作文を生徒同士で見せ合い、感想を出し合うようにさせたところ、発言が活発になり、課題に意欲的に取り組む姿が見られた。この手法を書写に応用すれば、受け身で書いている姿勢を改め、書くことに興味を持つのではと、大西教諭は考えた。

 文字に込めた思いを相手に伝え、助言を参考に書き直す。他者の目を入れ、文字が読まれることを意識させる。「いくら整った字を書くよう指導しても、普段は、とめ、はねを守らず、乱暴に書いてしまう。他人の文字について助言させれば、自分の字とも客観的に向き合うと思った」

 この日の授業では、各自が「卒業後の決意」を表す漢字1字を毛筆で半紙に書いた。部活で負けたくないという思いから、「勝」という字を選んだ南井(みない)昇太君(15)は、同じ班のクラスメートの意見を参考に、すべて赤色、「力」を大きめにして仕上げ、「迫力と気持ちを表現できた」と納得した表情だ。

 このほか、「昇」の日を丸く大きく目立たせたり、「想」の心を赤く強調したりと、個々の思いがより強く表された。「野球で魂のこもった球を投げたい」と太い筆で「魂」と書いた長浜智君(15)は、「普段から気持ちが伝わるように書きたい」と話していた。

 今年4月に実践を始めて12月までに10コマ程度だが、今年9月に子どもたちに感想を聞いたところ、「形や大きさを工夫すれば、同じ字でも印象が変わることが分かった」「アドバイスで伝えたい思いが整理された」など、確実に意識が高まっている様子がうかがえた。書写でなくても、プリントなどに丁寧な字で書く生徒も現れているという。

 藤井秀治校長は「思いをうまく伝えられないと、トラブルになることもある。相互評価という手法は、コミュニケーション能力育成にもつながり、書写を超えた教育的な効果がある」と評価している。(八木陽介)

 文化の一部として、書くことの重要性が見直されている。パソコンの普及で手書きの文書が激減する中で、書写・書道の指導に奮闘する現場を紹介する。

 書写 小中学校の国語の科目の一つで、文字を正しく整えて書けるようにするのが目的。これに対して、高校では、芸術の科目で「書道」と呼ばれ、文字の美しさが求められる。

2011年12月21日  読売新聞)
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