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「永遠の僕たち」(米)

死から得た生の手応え

 偶然出会った少年と少女の魂の触れ合いを描くラブストーリーには違いないが、これが独立系映画の旗手ガス・ヴァン・サントの手にかかるとがらりと様相が一変する。

 メルヘンのような脚本が瞬く間に生と死をめぐる詩的かつ哲学的な省察へと深化するのだ。

 3人の登場人物はおびただしい「死」の中にいる。交通事故で両親を失い自らも臨死を体験した少年(ヘンリー・ホッパー=写真左)と、彼の唯一の友で守護神のように付きまとう特攻隊員の幽霊(加瀬亮)。そしてがんを患い余命3か月の少女(ミア・ワシコウスカ=同右)。死から生還した者と死の世界に住む者、そして死に赴く者。死でつながった3人の出会いと別れの物語は葬儀場から始まり少女の葬儀で終わる。

 要するに死の妄想に取りつかれ徹頭徹尾死と格闘する三者三様の痛切な戦いの記録なのだが、もちろんここでの死は単に生の否定や消滅を意味しない。死を死として認め、死があるからこそ輝く生、死を乗り越える生の強靱(きょうじん)さ、その生への意欲を描くことにある。

 孤独な少年が過酷な試練の末に見いだしたのは、突然の死によって生が寸断される人生の不条理であり、それでもなお人生は続いていくという生の確かな手ごたえである。

 少年と少女の繊細で消え入るようなせりふのやり取りと心に染み入る音楽。まるで夢の中の出来事のように互いに体に触れ合ったり自転車に揺られたり。トリュフォーの映画の一場面のような洗練された光がまぶしい。1時間30分。日比谷・TOHOシネマズシャンテなど。(映画評論家・土屋好生)

2011年12月16日  読売新聞)

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