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「家政婦のミタ」に見る日本人の現状

文化部 田中聡

「家政婦のミタ」最終回より

 40・0%、というのはすごい数字なのである。

 何がって? 21日に日本テレビ系で放送されたドラマ「家政婦のミタ」最終回の視聴率のことだ。この2、3回、20%台の後半を記録していたから、最終回で30%は超えるだろうとは思っていたが、まさかここまでとは。民放ドラマ視聴率の40%超えは2000年、キムタクと常盤貴子が共演した「ビューティフルライフ」以来。つまり21世紀に入って初めての出来事、今世紀最大のヒットなのである。

 40%超えがどのくらいすごいのか。過去5年間の全番組の視聴率と照らし合わせながら、もう少し細かく説明しよう。ちなみに数字はビデオ・リサーチ社、関東地区のデータを基にしている。

 期間中、この大台をクリアした番組は、「ミタ」をのぞくと9本しかない。まず3本は大みそかの「紅白歌合戦」(2008年=42・1%、2009年=40・8%、2010年=41・7%)である。

 残り6本は、すべてスポーツ中継だ。4本が昨年のサッカー・ワールドカップの日本戦(パラグアイ戦の第一部=57・3%、カメルーン戦後半=45・5%、オランダ戦=43・0%、デンマーク戦=40・9%)。残り2本は2009年のワールド・ベースボール・クラシックの日本対韓国(40・1%)と同年のボクシング、内藤大助対亀田興毅(43・1%)。

 同じサッカーでも今年あったアジアカップでは、準決勝の韓国戦35・1%、決勝のオーストラリア戦33・1%、と注目度が一枚下がる。ブームになった「なでしこジャパン」の最高は、五輪予選の韓国戦の後半、29・0%。お母さんを亡くしたばかりの浅田真央ちゃんが優勝した25日の全日本フィギュアスケート選手権が26・7%。2008年の北京五輪開会式が37・3%……。

 つまり、「家政婦のミタ」がたたき出した数字は、オリンピックやアジアカップを超えて、WBCやワールドカップに匹敵する。それは日本人にとって、「国民的行事」であったことを意味するものなのだ。

 では、なぜこんな数字が出たのか。

 24日の読売新聞夕刊で、上智大学の碓井広義教授は「最終回の視聴率が30%を超えるかどうかがインターネット上などでも話題になっていた。ドラマを見ないと言われる若い人たちが、話題のイベントに参加するような気持ちで視聴したのではないか」と分析している。実際、フェースブックやツイッターでの情報拡散は、かなり派手だったようだ。話題が話題を呼んで、本来の力よりも1、2割増の数字が出たことは、容易に想像がつく。

 ただ、その「水増し」部分をのぞいても、「家政婦のミタ」があげた数字は非常に高い。11月30日に記録した29・6%という視聴率は、件の最終回をのぞいても年間4位にあたる。ベースとなる人気はどこから来ているのか、を探らないと、「国民的話題」の根本は理解できないだろう。

 崩壊しかかった家庭に、ロボットのように無表情な家政婦が入り込み、与えられた無理難題を顔色も変えずにこなそうとする――。このドラマのエッセンスを簡単に言うと、こんな風になるだろうか。そこに現代社会のメタファーを見いだし、心理的なリアリティーを感じたからこそ、視聴者はこのドラマを見続けていたに違いない。

 筆者が見たのはホンの数回に過ぎないが、印象に残ったのは異様に平板な画面と寒々しい雰囲気である。それはまるで今年、あちこちで聞かれた「絆」という言葉とは裏腹の、人間関係の希薄さと、それに対する不安と焦燥を象徴しているようだった。仮面をかぶったような「ミタ」の顔。その裏側に、ひそかに人間関係に悩む日本人の現状が見えた気がするのは、私だけだろうか。

2011年12月27日  読売新聞)

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