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決戦の時

頂点へ駆ける エースの戦い

 第88回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)は1月2、3日、東京・大手町の読売新聞旧東京本社(建て替え中)前から箱根・芦ノ湖までを往復する10区間217・9キロで行われる。優勝争い、シード争いを大きく左右するのが各チームのエースの走り。5区で4年連続区間賞を狙う東洋大・柏原竜二(4年)ら学生長距離界を代表するスピードランナーたちは、母校の名誉と自らのプライドをかけて火花を散らす。

故郷・福島に喜びを 柏原竜二(東洋大・4年)

5区で4年連続区間賞を狙う東洋大・柏原

 「新・山の神」が最後の箱根路を迎える。山登りの5区で3年連続区間賞。前回は区間記録の更新こそならなかったが、1時間17分53秒のタイムは前区間記録保持者の今井正人(順大―トヨタ自動車九州)による記録を12秒上回っていた。最初に「山の神」と呼ばれた同じ福島県出身の先輩を、完全に超えた。

 今回も5区に向かう準備は出来ている。「76分(1時間16分)台くらいでは走りたい。最後なので、自分を超えたいという気持ちが強い」。自らが2年生の時に樹立した区間記録1時間17分8秒の更新に狙いを定めた。

 前回大会で早大に21秒差で敗れ、総合3連覇を逃した悔しさ。4年間、苦楽を共にしてきた仲間たちとの友情。そして、東日本大震災からの復興に取り組む故郷・福島への思いも抱えて走る。

 11月20日。大学に入ってからは初めて、市町村対抗福島県縦断駅伝に出場。4区区間賞の力走を見せ、いわき市の総合優勝に貢献した。沿道から「箱根で頑張って」と声をかけられた。「福島県を盛り上げるつもりだったが、僕がやる気をもらった。(故郷の人々に)喜んでもらえるような走りをしたい」と、意気込みを新たにして来た。

 来春からは実業団の富士通に進む。将来的にはマラソン挑戦も考えている。これが競技者としてのゴールではない。だが、もう箱根の5区を走ることはない。福島で育み、東洋大で磨いてきた今ある力のすべてを、ラストランにぶつける。

柱の自覚と自信胸に 大迫(すぐる)(早大・2年)

早大連覇のカギを握るエース、大迫

 練習で左腕にはめている腕時計を、レースになると外す。「時計をつけるのがあまり好きじゃない。良くも悪くも、時計を見て速いなとか、遅いなとか意識しちゃう。そういう感覚が好きじゃないので、試合の時はつけないようにしている」

 時間の計算や駆け引きよりも、自分の体に刻まれるリズムを信じる。だから、前回の1区で早々と飛び出したのは、「自分のペースで走っていったというだけのこと」。その結果、独走でチームに勢いを吹き込み、18年ぶりの総合優勝に大きく貢献した。

 渡辺康幸監督は「今年、非常に成長し、エースに育っている」と評価する。トラックでも安定した成績を残し、本人も「僕自身、チームを脚で引っ張っていくことを意識して今やっている」と、柱である自覚を持ちつつある。

 鮮烈な箱根デビューを果たした1年前と同様、1区での起用が決まった。「僕は、設定タイムはあまり考えないタイプ。一番は流れを作って、次の走者に渡すこと。タイムや順位以上に、駅伝ではそれが大事なので」。研ぎ澄まされた感覚に確かな自信を加え、2度目の箱根路に臨む。

五輪標準記録も突破 鎧坂(よろいざか)哲哉(明大・4年)

ロンドン五輪出場も見据える明大・鎧坂

 有力校の監督による大会前の座談会で、「うちに大砲はいない」と他校を煙に巻いていた明大の西弘美監督が、エース級の集う2区の起用についてポロリとこぼした。「カギは1〜3区。2区はよろい……」。監督も認める大黒柱だ。

 1万メートルのタイムはエントリー選手の中で最速。7月の英国トライアルで、日本人学生最高記録となる27分44秒30をマークし、ロンドン五輪の参加標準記録Aを突破した。10月末に痛めた腰の状態が気がかりだが、主将の重責も担う今大会では「区間賞を狙っていきたい」と意欲を燃やす。

 五輪の夢も見えてきたが、今はもう一つの夢の方が大きい。1949年を最後に遠ざかっている総合優勝だ。「古豪ではなく、強豪と呼ばれるためには、優勝が必要。(今大会が)自分にとって最後のチャンス」。その目は頂上をしっかり見据えている。

17人抜きの輝き再び 村沢明伸(東海大・3年)

前回の2区で17人抜きの快走を見せた東海大・村沢

 前回大会の2区での17人抜きは衝撃的だった。最優秀選手(金栗杯)にも輝き、学生長距離界を代表する選手となった。しかし、その後の1年間の道のりは決して平坦(へいたん)ではなかった。

 ロンドン五輪の出場をめざし、今シーズンは1万メートルの参加標準記録突破を目標に掲げた。6月の日本選手権で2位、7月のアジア選手権で3位と順調に来ていた。だが、相次ぐレースと記録へのこだわりに、体が悲鳴を上げたのかもしれない。

 胃腸炎を患い、予定していた英国トライアルへの参加を取りやめ、練習計画は一からやり直し。このトライアルで明大の鎧坂哲哉が同種目の参加標準記録Aを突破した。「もし自分が行っていたらと思うと、もったいないし、悔しい」と振り返る。ただ、こうも思う。「鎧坂さんが出せたのなら、自分もきっと出せる」

 参加標準記録の突破は来春、改めて狙う。その前に3度目の箱根がある。「1月2、3日に向けた状態としてはいい。自分にしか出来ない、自分の役割を果たしたい」。前回、チームを4位に押し上げたエースの意地とプライドをかける。

初々しく攻撃的に 出岐雄大(できたけひろ)(青山学院大・3年)

ロードでの活躍が目立った青山学院大・出岐

 高校1年秋までサッカーに熱中していた。ポジションはサイドハーフ。「技術はいまいちでしたけど、運動量だけはありました」。スタミナを見込まれて陸上部に誘われたのがきっかけで、長距離を始めた。

 両腕を大きく左右に振るフォームに球技をしていた頃の面影を残す。レースは常に攻撃的で、有名な実業団選手が相手でも周囲が驚くほど果敢な仕掛けをみせる。「競技歴が短いからフォームも粗削りだし、選手の名前とか特徴も知らないんです」と苦笑いする。

 原晋監督は「この野性味が魅力」と感じ、フォームを修正することなく、必要以上の知識も植え付けずに1年生から箱根の重要区間で起用した。今夏のユニバーシアードのハーフマラソンで6位入賞し、常連校のエースとして強豪校がマークする存在になった。「自分が箱根で走ること自体がうそみたいです」と初々しく笑うが、実力は本物だ。

負けん気強い成長株 窪田忍(駒大・2年)

駒大のエースに成長した窪田

 10月の出雲駅伝、11月の全日本大学駅伝で、いずれもアンカーを務めた。出雲では3位から2位に順位を上げ、全日本では東洋大・柏原竜二の猛追を振りきって優勝した。大八木弘明監督は「今、うちの中で一番、安定感があるんじゃないかな」と信頼する。

 福井・鯖江高では、3年時に国体少年A1万メートルで8位に入ったのが主な成績。大学に入り、有力選手が集まるチーム内でもまれ、実力をつけてきた。「強い先輩ばかりだし、同学年にも高校時代からすごい成績を収めている油布(郁人)という存在がある。そういう選手たちに勝ちたい、負けたくないという思いで練習できている」

 前回は7区で区間賞。今回は主要区間を任されることが確実だ。「どの区間でも、しっかりと自分の走りをしたい」。チームカラーを象徴するような、たたき上げのエースが、総合優勝へのけん引役となる。

今季の長距離の主な記録
◆ユニバーシアード
▽1万メートル
〈1〉大迫 傑(早 大)28分42秒83
▽ハーフマラソン
〈3〉早川 翼(東海大)1時間6分25秒
◆アジア選手権
▽1万メートル
〈3〉村沢明伸(東海大)28分40秒63
◆日本選手権
▽5000メートル
〈3〉鎧坂哲哉(明 大)13分39秒88
▽1万メートル
〈2〉村沢明伸28分15秒63
◆日本学生対校選手権
▽5000メートル
〈1〉村山謙太(駒 大)13分54秒00
〈3〉大迫 傑13分55秒22

2011年12月30日  読売新聞)
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