現在位置は です

本文です

「鶴瓶の家族に乾杯」DVD化 被災地再訪の「再会編」

「何も起こらなくていい」と現地では飛び込み取材を貫く

 落語家の笑福亭鶴瓶が全国津々浦々の人々と触れ合うNHKの紀行番組「鶴瓶の家族に乾杯」(月曜後8・00)で、東日本大震災の被災地を再訪した“再会編”が反響を呼び、2012年3月にDVD発売されることになった。(旗本浩二)

 一期一会を旨に14年以上番組を続けてきた鶴瓶に、被災地への思いを聞いた。

 「鶴瓶の家族に乾杯」は、1997年3月から月1回のレギュラー番組としてスタート。2005年度から週1回の放送となった。震災前の被災地では、04年2月に福島県相馬市、10年2月に宮城県石巻市、同11月に同県塩釜市をそれぞれ紹介している。

 「早く行かないと」――。

 3月11日の震災当日、番組収録中だった鶴瓶の頭をよぎったのはそのことだった。一度訪ねた町の住民とは、放送後も個人的に交流を続けてきた。それだけに津波のニュース映像に気持ちがはやった。

 「行かないよりは行った方がいい。自分がどう思われるかは二の次。まずは行動を起こそうと思った」

 当初は個人的に再訪しようと考えたが、放送の力を借りた方がいいと思い直した。

被災地住民への熱い思いを語る笑福亭鶴瓶

 「今回の震災では、直接の被災地だけでなく、日本全国が被災し、強いストレスを受けたようなもの。だったら逆に、現地の人々の前向きな姿勢をテレビで見てもらえば、被災地以外の人たちも元気になるのではないか」

 とはいえ同番組の基本姿勢は「何も起こらなくていい」。面白い番組に仕立てるべく演出を凝らすのでなく、現地の人たちを楽しませるのが主眼だという。だから現地での収録は1日のみで、飛び込み取材を貫く。「『何で番組として撮らなあかんねん?』というのがこの番組の本質だ。テレビはどうでもいい」と鶴瓶は言い切る。“再会編”もその方針で臨んだ。

 5月に石巻市、8月に塩釜市、9月に相馬市をそれぞれ訪問。前回出会った人々との再会を喜び、近況を尋ね、励ましてきた。「一緒に話をするだけで安心してくれ、途中から泣きだす人もいた」

 石巻市では避難所になっていた寺の本堂を借り、鶴瓶は落語を披露。ゲストのさだまさしはギターを取りだして歌った。スタジオでは、その場面を見た司会の小野文恵アナウンサーがすすり泣いた。

 また、同市で出会ったすし店主が廃業をほのめかすと、鶴瓶は再開時に訪ねることを約束。店は11月に再開され、鶴瓶はスケジュールをやりくりして駆けつけたという。

 「現地は随分変わった」と鶴瓶は驚く。「海を見るのが嫌だった漁師から『今は海を見て漁のことを考えられるようになった』と電話があった。自然は、人間の気持ちには絶対に勝てない」と痛感したという。「人を助け、周囲の人のために何をするか。人間が本来持っている善の心が、自然の脅威を乗り越えさせる」

 DVDはNHKエンタープライズから、3枚組み8400円(税抜き)で発売される。番組を見られなかった人にも見てもらうことが目的といい、売り上げの一部は被災地に寄付する予定だ。「被災者の痛みは共有できないが、彼らが持っている強さは、我々も共有できる。人間はよみがえる。人は人で助けられる」。力強く言い切った。

2011年12月27日  読売新聞)

 ピックアップ

トップ


現在位置は です