(上)懐疑派と議論 本格化「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」「科学者の9割は『地球温暖化』CO2犯人説はウソだと知っている」――。書店の環境問題コーナーに、刺激的なタイトルが並ぶ。二酸化炭素(CO2)の増加で地球は温暖化しているという説に対し、疑問を投げかける本だ。政府が温暖化対策を推し進めているいまになって、温暖化懐疑論が蒸し返されるのはなぜなのか。その背景を3回に分けて探る。(中島達雄、片山圭子) ◇ 地球温暖化を題材にしたアル・ゴア元米副大統領の映画「不都合な真実」に合わせて2007年1月に発売された書籍版は、たちまちベストセラー入りした。「その後を追うように、温暖化を否定する本も次々に出てきて売れ始めた。ピークは08年の前半あたり」。東京の「丸善」丸の内本店で専門書売り場を担当する村山美尾さんは語る。 懐疑派の本がよく売れた時期はちょうど、08年7月の北海道洞爺湖サミットを前に、国やメディアが一斉に温暖化防止や環境保護を訴えていた時期と重なる。 出版科学研究所の綾部二美代(ふみよ)研究員は、「世の中にいろいろな意見があるのは当然のこと。『エコ、エコ』の連呼に違和感を覚えていたときに懐疑本を見つけると、思わず手に取ってしまうのでは」と分析する。 ◎ 「地球はこれから寒冷化する。今後も地球は温暖化するというIPCCの予測は間違っている」 そう言い切るのは、「科学者の9割は――」を書いた丸山茂徳・東京工業大学教授だ。地質学の第一人者だが、最近は懐疑論者の代表格となっている。 IPCCは、2007年にまとめた第4次評価報告書で「気候システムの温暖化には疑う余地がない」とし、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い」と指摘。ゴア氏とともに、07年のノーベル平和賞を受賞した。 これに対し、丸山さんは「そもそも気候変動の主な原因は、太陽の活動の変化や地球に降り注ぐ宇宙線の変化。二酸化炭素は主犯ではない」とみる。 「太陽活動は減衰し始めている。IPCCの予測とは逆に、これから地球は寒冷化していく。実際に、ここ数年は平均気温が下がっている。どちらが正しいか、10年もすれば答えが出る」 自信満々の丸山さんの主張に「ちょっと待った」とストップをかけるのは、第4次評価報告書の研究支援にかかわった国立環境研究所の江守正多(せいた)・温暖化リスク評価研究室長だ。著書「地球温暖化の予測は『正しい』か?」は、数少ない温暖化肯定派の本。インターネット書店「アマゾン」の売り上げランキングで、懐疑派の本に交ざって上位に食い込む。 「地球の平均気温が短期的に下がることがあるのは当たり前。IPCCの予測に不確かさが残っているのも事実だが、懐疑論者が最近になって主張し始めている疑問は、とっくに検討済み。IPCCの結論は、そのうえで出している」 ◎ 東北大学の明日香寿川(じゅせん)教授(環境政策)によると、地球温暖化懐疑派の主張は七つのグループに分けられる。温暖化そのものを否定する人や温暖化は認めつつも原因は二酸化炭素ではないと主張する人、IPCCが根拠とする気候予測モデルの信頼性を疑う人、温暖化対策よりも大事な問題があると主張する人もいる。 明日香さんは「懐疑派の主張の多くは論理に無理がある。いま地球は温暖化していて、人間活動による大気中二酸化炭素の急増がその原因だという説が、現状を最もよく説明できる。世界中の研究者のこの共通認識を、もっと重視すべきだ」と話す。 江守さんや明日香さんら主流派の学者は、次々とわき出る懐疑論に目を光らせ、メールで頻繁に情報交換をしている。名付けて「懐疑派バスターズ」。たんに異論を封じるのではなく、懐疑派との討論を通じて社会に温暖化の実相を伝えるのが目的だ。その活動が、本格化し始めた。
(2009年2月23日 読売新聞)
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