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『司馬遼太郎覚書』 辻井喬著

評・橋本五郎(本社特別編集委員)

 司馬遼太郎とその作品の持つ意味を通して、日本とは、国家とは、日本人とは何かを考察した書である。

 司馬文学の人気の所以(ゆえん)は、幕末から明治にかけての指導者が民間から出た普通の階層の若者であったと呈示(ていじ)したからであり、経済成長の陰で置き忘れた、けなげさや無私の美しさを作品で問うたからだろう。

 司馬の歴史観の本質は、無常感やニヒリズムを秘めた相対史観であり、常に()めた目を持つ冷静な観察者であり続けた。『坂の上の雲』にもみられるかなりの分量の「あとがき」、随所に登場する「余談」は虚構の小説世界を事実と錯覚させる一種の「詐術」だが、熱中して興奮状態にならないよう、読者だけでなく自らも戒めたからではないかと興味深い分析をしている。

 著者は決して手放しの司馬礼賛はしない。結果も展望し上から見下ろす「俯瞰(ふかん)法」を結果肯定になると批判し、天皇の戦争責任を意識的に避けた分、昭和軍部批判が激しくなっていると指摘している。司馬と三島由紀夫、松本清張三者の比較論も含め、単なる「覚書」をはるかに超えた文学論、歴史論になっている。(かもがわ出版、1800円)

2012年1月16日  読売新聞)

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