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笑いこぼれる「首」の争奪戦

『パンチョ・ビリャの罠』 クレイグ・マクドナルド
(集英社文庫、762円、池田真紀子訳)

 お宝争奪戦といえば、『マルタの鷹』以来の定番ネタ。本書もその一つですが、異常性が際立つのは、お宝が「首」だからです。

 史実に基づいたアイデアに実在の人物を絡ませ、そこに大うそを乗せるという、大胆な展開。こういうのは、書いていて楽しいんだけど、ラストがめちゃくちゃになりがち。ところが本書はきちんとまとまって、後味の良い作品です。

 首の争奪戦は、本来グロテスクなはずなのに、なぜか笑いがこぼれてしまいます。大げさ、かつユーモアにあふれた文体の影響が大きいですね。

 首を狙う連中は、FBI、メキシコの悪党たちに加えて、名門大学の秘密結社(スカル&ボーンズとかですが、この描写がほとんどカルト)。とにかく終始混乱しています。

 その中で、主人公の中年作家、ヘクター・メイソン・ラシターのキャラが光る。普段ひょうひょうとしているのに、やる時はぶっ飛びという感情移入しやすいタイプです。いい年なんだから落ち着けよ、と思いますが、アクションに恋に大活躍。相棒の詩人・フィスクとのやり取りも楽しい。

 争奪戦の末に主人公が勝利、と行きたいところですが、この小説は“骨折”しています。全体の8割以上を占める第1部が本編なのですが、第2部の後でヘクターの死が明かされ、第3部の主人公はフィスクに。ここからさらに驚がくの展開で、ラストは、忘れがたい格好良さでした。

 話の傾向は全く違うのですが、味わいは、『ロックンロール・ウイドー』などでギャグ寸前のストーリーを繰り広げたカール・ハイアセンに近いかも。ただしスピード感はハイアセン以上で、バカっぽさ(良い意味ですよ)も3割増し。ドーピングしたハイアセン、という感じでしょうか。

 あちこちに映画ネタがちりばめられ、好きな人にはそれも魅力かと思います。

あらすじ

 メキシコの革命家、パンチョ・ビリャの首を手に入れたヘクターは、争奪戦に巻きこまれる。

堂場的おススメ度:95

 笑った、笑った。読後感最高。マイナス5点の理由=メキシコ史を知らないと、面白さ半減かな。

プロフィル

堂場瞬一:1963年生まれ。警察、スポーツ小説で活躍。代表作に「刑事・鳴沢了」「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズ。

2011年11月9日  読売新聞)

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