仏の田舎の美食が印象的
『緋色の十字章 警察署長ブルーノ』 マーティン・ウォーカー
(創元推理文庫、940円、山田久美子訳)
「小さな街の警察署長」は、アメリカのミステリーでは王道の主人公ですが、本書の舞台はフランス。「パリはフランスじゃない」なんてよく聞きますが、田舎こそがフランスらしいんでしょうか。
主人公のブルーノが警察署長(と言っても警官は1人)を務めるサンドニは、人口約3000人の小村。全員が顔見知りと言ってもよく、出だしからしばらくは、村の人たちとブルーノの交流が、ほのぼのと描かれます。
そんなのんきな雰囲気が、残虐な殺人で一変――というのはよくある展開ですが、この小説はとにかく、登場人物がいい。人好きのするブルーノの性格を「嫌い」と感じる人は少ないでしょうし、脇役もことごとくいい味を出しています。少しのんびりした展開ですが、楽しく読み進められます。
もっとも、本書の最大の読み所は、フォアグラ、トリュフ、クルミの名産地というサンドニの、食文化の紹介かもしれません。
調理・食事シーンの描写が、小説全体の明るい雰囲気を決めています。食べ物って、実生活でも小説でも大事だよね。まあ、実は単なる地元自慢だったりするんですけどね。お約束で、イギリス料理に対する悪口も出てきますが、実は著者はイギリスの人。英国流の皮肉っぽいユーモアってやつでしょうか。
食が中心のミステリーといえば、「ネロ・ウルフ」シリーズですね。こちらはひたすら金をかけたグルメで、「美食と趣味のランのために事件を引き受ける」なんていう、ちょっと嫌みな探偵が主人公です。
一方、本書はいわば「地産地消」。生活に根付いたさりげない美食ばかりが出てくるので、好感度が高いんでしょうね。
料理が印象的な一冊ですが、話の軸は、第2次大戦時までにさかのぼる暗い過去。深みも苦い結末もあり、なかなかの感動作でした。
戦争の英雄が惨殺された。ブルーノは、「地の利」を生かして捜査に奔走する。
田舎の豊かな雰囲気、最高です。マイナス10点の理由=空腹時に読むと、さらに腹が減る!
堂場瞬一:1963年生まれ。警察、スポーツ小説で活躍。代表作に「刑事・鳴沢了」「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズ。
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