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今から備える定年後の働き方


ファイナンシャル・プランナー 山田 静江

 多くの企業では、60歳定年制度を採用しています。しかし、公的年金が満額もらえる年齢は年々遅くなっているので、よほどの蓄えがない限り、60歳で仕事を辞めて悠々自適の生活とはいかないでしょう。住宅ローンや子どもの教育費が残っている人はなおさらです。

 60歳といえばまだまだ元気で働ける年齢ですから、生きがいのためにも完全リタイアは避けたいものです。お金に困らないのであれば、各種のボランティア活動にかかわってみるという選択もあります。

働き方で異なる収入・社会保険・税金

 退職後も現役時代同様、バリバリ働きたい方もいれば、ゆっくりマイペースで働きたい方、資格やスキルを生かしてフリーで働きたい方もいるでしょう。収入や年金・医療保険などの社会保険、税金が働き方でどう違ってくるか、あらかじめ確認しておきましょう。

(1)フルタイムで働く場合
 正社員や契約社員、派遣社員として働く場合、収入は月給や年棒など、あらかじめ決まった金額となります。社会保険は原則として勤務先の制度に加入。厚生年金に加入しながら働いている人は、公的年金は収入に応じて調整(減額)されます。

 医療保険は74歳までは勤務先の健康保険に加入しますが、75歳以降はどんな働き方をしていても後期高齢者医療制度に加入することになります。所得税は勤務先で年末調整により計算してもらえますが、年金など他の収入がある場合には確定申告が必要な場合もあります。

(2)パートタイムで働く場合
 アルバイトやパートなどの短時間労働では、収入は原則として働いた分だけ受け取る時間給になります。労働時間や収入によっては勤務先の厚生年金や健康保険に加入することもありますが、そうでなければ、医療保険については住んでいる自治体の国民健康保険に加入するか、生計維持関係にある配偶者や子が加入する健康保険の被扶養者(60歳以上では年収180万円未満が条件)となります。定年前の勤務先の健康保険に続けて加入する方法もあります(2年間だけ任意継続被保険者になる、74歳まで特例退職被保険者となるなど)。

【参照】退職後の健康保険の選択はどうすればいい?

 公的年金については、60歳以上は任意加入です。国民年金の加入期間が40年に満たない場合は、任意加入すれば年金額を増やすこともできます。現役時代に国民年金の第3号被保険者だった妻(配偶者)がいる人は、妻が60歳になるまでは第1号被保険者として保険料を払わなければいけないので、手続きを忘れないでください。所得税についてはフルタイム同様に勤務先で年末調整されますが、他の収入があれば、やはり確定申告が必要な場合もあります。

(3)自営業・フリーで働く場合
 誰かに雇われずに、仕事そのものを受注したり創り出したりする場合には、仕事の内容に応じた収入になります。社会保険は勤務先の制度に加入しないパートタイム労働者と同じように、自分で選んで加入します。

 自営業でやや面倒なのは、所得税の申告です。収入や経費は自分で計算して確定申告を行うことになるので、収入や支出がわかるもの、発行した請求書の控えや支払調書、請求明細書や納付書、領収書などを保管し、整理しておかなければなりません。税金に関する本を読んだりセミナーに参加したりして、手続き漏れのないようにしておきたいものです。

 自分で会社を設立して仕事をする場合には、各方面への手続きや税金の申告は個人事業主より煩雑になり、税理士などの専門家の手助けが必要になる場面が増えます。専門家への報酬や、法人住民税の均等割(最低でも年に7万円)など、赤字決算でも数万円の支払いが発生し、思うような収入が得られなければ大赤字になってしまうこともあるので、設立前に起業セミナーなどに参加して、いろいろな情報を仕入れておくことも必要でしょう。

(4)ボランティア活動
 ボランティア活動は原則無償というところが多いのですが、交通費や食費などの実費のみ支給となるケースや、有償ボランティアといい、少額ですが報酬がもらえるケースもあります。社会保険や税金は、報酬の受け取り方(給与収入かそれ以外か)によって、パートタイム労働者、または自営業やフリーと同様になります。

仕事の探し方は?

 定年後に新たに仕事をさがすのは、考えているよりずっと大変です。現役時代と比べた労働条件の悪さに驚いてしまうかもしれません。それでも、生きがいや収入を確保するため、60〜64歳の年齢層では、男性で7割以上、女性で4割以上の人が、何らかの仕事をしています。

 それでは、どのようにして仕事を探しているのでしょう?

 厚生労働省の平成22年雇用動向調査には、雇用されている人がどのような経路でその仕事についたか、という調査項目があります(図表)。その調査によると、60〜64歳で雇用されている人のうち、約4割が「縁故」によって仕事を得ています。その半分は前の会社による紹介、それ以外は友人や知人の紹介などでしょう。

 定年後に仕事を探す場合、自分のことをよく知っている人からの紹介は、大きな力になります。「真面目で信用できる人だ」「仕事の段取りがいい」「人をまとめるのがうまい」「ネットワークが広い」といったことは、自分ではなかなかアピールできないものです。新たなネットワークを広げることも大事ですが、同僚や友人など古くから付き合いのある人とのつながりも大切です。再就職を考えていたら、定年退職前からいろいろな人に就職希望ということを話しておくのも効果的だと思います。

 縁故以外では、「職業安定所(職安、ハローワーク)」と「その他」がほぼ同率で、それぞれ約2割。「その他」には、仕事センターや人材銀行、シルバー人材センターなどの中高齢者向けの職業紹介機関も含まれていますが、これらの公的な職業紹介機関を通じた職探しも効果的ということがわかります。

 なお65歳以上になると、男性は職安経由が11.4%に下がって、その他が30%に上昇します。一方女性は、職安は約20%のままですが、広告は26%に上昇、そしてその他は16.4%に下がります。女性の働く場所は年齢にかかわらず広告による求人が多いのかもしれません。


 上記は雇用されている人だけのデータですが、自営業やフリーで働く場合、縁故の重要性は高まります。資格をとっても営業力がなければ、仕事は得られません。異業種交流会や同業者の勉強会などに参加して、ネットワークを広げスキルを高めておくといいでしょう。

 フリーになれば、以前働いていた会社の看板は役に立たないこともありますが、そこで得たネットワークは、いろいろな場面で活用できるかもしれません。

 ボランティアは、誰でもできるものから専門性が求められるものまで多種多様なものがあります。下記のようなサイトで検索するほか、地域の社会福祉協議会、ボランティアセンター、市民活動センターなどをのぞいてみてもいいでしょう。

<ボランティア活動の場を見つけられるサイト>
NHKボランティアネット
社会福祉法人 全国社会福祉協議会
Yahoo! ボランティア
シニア海外ボランティア(国際協力機構JICA)

現役時代から少しずつ準備を

 公的年金がすぐにはもらえない状況を考えると、勤務している会社に継続雇用制度があるなら、その制度を活用するのがいいでしょう。しかし、年下の部下の下で働くのはいやだとか、別の仕事や社会貢献がしたいと思うのであれば、資格取得やネットワークを広げるなど、早め早めに準備しておくことをおすすめします。

 フリーで仕事をしたり、ボランティア活動で活躍していたりする人の多くは、現役時代から少しずつ準備していたそうです。50歳を過ぎたら、定年後の準備のひとつとして、働き方について少しずつ考えてみてはいかがでしょう。
【私のつぶやき】
 60歳代のいとこ夫婦は、仕出し弁当屋を経営していましたが、数年前にご主人が交通事故で大けがをしたことから仕事を縮小し、昨年完全に廃業しました。
 先日、近況を尋ねたところ、弁当の納付先だった会社の社長さんから誘われて、現在は夫婦で検品の仕事をしているそうです。毎日楽しく通って働いているとうれしそうに話していました。やはり縁故は大切と改めて感じた出来事でした。

プロフィール
山田 静江  (やまだ・しずえ)
 1961年東京生まれ。CFP(r)。銀行、税理士事務所、FP事務所を経て独立。お金に関する記事の監修・執筆、相談業務、セミナー講師などを行っている。娘2人。WINKS代表、NPO法人らしさ副理事長
2012年1月19日  読売新聞)

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