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紅白を見る「正しい正月」の迎え方

文化部 田中聡

紅白歌合戦初出場の顔ぶれ(2011年11月30日撮影)

 「紅白歌合戦」を見ながら年越しそばを食べ、「ゆく年くる年」とともに除夜の鐘を聞く――。

 由緒正しいニッポンジンの年末年始の過ごし方とは、こんなものであろうか。では、どれだけの人間が「正しい正月」を迎えたのか。昨年12月31日の「第62回紅白歌合戦」第二部(午後9時〜11時45分)の視聴率は41・6%であった。ちなみに数字は、ビデオリサーチ社の関東地区の調査結果を基にしている。

 ここ5年間では、2008年の42・1%、一昨年の41・7%に次ぐ3番目の数字。最近の"合格ライン"となっている40%を1・7ポイント上回る「可もなく不可もない」数字であった。もっとも、「可もなく不可もない」というのは、国民的行事である「紅白歌合戦」にとっては、ということで、40%という視聴率は、一般のテレビ番組にとっては、お化けみたいな数字である。どうお化けなのかというと……昨年末、「家政婦のミタ」について書いた当欄コラムを参照していただきたい。

 とにかく、昨年の「紅白歌合戦」は無事40%超えを果たし、「家政婦のミタ」の最終回(40・0%)を抜いて、視聴率年間第1位の座にもついた。

 まあ、松田聖子、神田沙也加親子がどうしたとか、長渕剛の中継演出がこうしたとか、いろいろ個人的に感想をお持ちの方は多いだろうが、3月11日の東日本大地震以来、日本のテーマになっていた「絆」を確かめる場として、この番組は最適だったのだろう。

 なにしろ、炬燵を囲んで家族で見る、というイメージがもっとも似合う番組だから。震災復興をテーマのひとつに掲げているだけに、NHKもあえて「応援合戦」などの演出に力を注がずに、歌を聞かせることに専念したようだ。プラスに評価すると、こういう書き方になる。

 意地が悪い見方もないわけではない。

 実は昨年、衛星放送の再編で、NHKのBSチャンネルがひとつ減ったのを覚えておられるだろうか。従前はBS1、BS2、ハイビジョンの3波だったのが、4月1日からBS1、BSプレミアムの2波になった。

 これによって、何が起こったのか。

 2009年まで、「紅白歌合戦」は地上波だけの放送ではなかった。「大河ドラマ」と同じく、BS2でも同時放送を行っていたのである。通常3〜5%はあるのでは、と推定されるこのBS2の視聴率は、一昨年の41・7%、2008年の42・1%には含まれていない。

 ところが、BSが2波体制になった昨年は、BSプレミアムでの「紅白歌合戦」の同時放送は行われなかった。つまり、41・6%の「可もなく不可もない」視聴率は、今までのBS分の数%が上乗せされた数字だということだ。実質、例年よりも視聴率はダウンしている、ともいえるのである。「嬉しさも中ぐらいなり」ではないか、とNHK担当者の心境を慮ってみたくもなる。

 「紅白歌合戦」を見なかった「正しくない」(?)ニッポンジンが主に見ていたのは、「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!! 大晦日年越しSP!!」(日本テレビ)である。午後6時半から午後9時までの「第1部」が18・7%、午後9時から深夜0時30分までの「第2部」が16・6%を記録した。

 大晦日恒例となった「絶対に笑ってはいけない」シリーズ(今回の舞台は空港)が好評で、第1部、第2部とも視聴率は過去最高であった。一時期は、「K―1プレミアム」(TBS)などの格闘技番組が「紅白歌合戦」の裏番組の定番だったが、すっかりその座を奪った格好だ。「戦い」や「感動」は、未曾有の災害からの復興をテーマとした年を迎えるには、ふさわしくなかったのかもしれない。

 「歌」と「笑い」で迎えた新年。茶の間桟敷は除夜の鐘を聞きながら、どんな思いを持ったのだろうか。ちなみに、大晦日から正月にかけて、とあるカウントダウンイベントに参加していた私は、ニッポンジンとして「正しい」「正しくない」の埒外なのである。

2012年1月10日  読売新聞)

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