憲法クイズ12:参院議長の首相立候補は憲法の想定外 ○か×か
調査研究本部主任研究員 鬼頭 誠
前回クイズ11は、「閣議決定抜きに記者会見で『脱原発』宣言、菅首相の行動は憲法違反 ○か×か」だった。
答えは「○」を正解とした。大統領制であれば認められることの多い単独の方針決定権だが、日本国憲法は、内閣総理大臣(首相)に、人事権以外、明示的な政策決定権を与えていない。憲法第65条は、「行政権は、内閣に属する」と明記している。国の重要政策を変更するなら、菅直人氏はまず自分の意見を内閣に諮って閣議決定してから宣言するのが当然だった。記者会見の翌々日、国会で問いつめられた結果、「(会見では)私の考えを申し上げた」と軌道修正したが、少なくとも2日間、憲法違反的行動で国民を惑わせた罪が消えるわけではない。
さて、憲法クイズ12は、菅首相退陣→野田新政権誕生の過程で、小沢一郎氏周辺から一時浮上した「西岡武夫参院議長を首相候補に擁立」の動きをテーマにした設問。「参院議員あるいは参院議長の首相就任は、憲法の想定外であり、認められない ○か×か」がクイズ。
解答のヒントは、憲法第67条。その第1項では、首相は「国会議員の中から」、国会の議決で指名されるとあり、第2項には、衆院と参院で意見が一致しない場合、最終的に衆院の議決が国会の議決となるとある。
条文を素直に読めば、首相指名は事実上、衆院の意向で決まる一方、首相になる資格は「国会議員」に認められている以上、議長も含めて参院議員も首相候補になりうる。答えは「×」のはずだ。
ところが、長い間、憲法学者の解釈では「憲法は第1次院を衆院としているから、衆院議員から選ぶのが本則」とするのが一般的だった。つまり、古い教科書に従えば、答えは「○」。
これに対して、憲法を文言通り解釈すべきだという意見が近年、第2、第3世代の憲法学者によって論じられるようになってきたという。というわけで、今回の答えは、時流にのって、「×」としたい。参院議員であっても、首相に選ばれることは何ら問題がない、と。
それにしても、憲法を文字通りに読み理解しない解釈が、長らくまかり通ってきたということは、どういうことなのか。権威主義や前例踏襲主義が学界や政界にはびこっているのだろうか。今回、西岡議長擁立論の前に立ちはだかった批判の声も、ねたみそねみといった本音部分は横に置くとして、「前例がない」、「三権分立原則に反する」といった建前論、原則論だった。
西岡氏はこれに対して、「慣例にこだわっていては、緊急の事態についていけない」と、前例主義に反論していたし、議長と首相を兼務する気などさらさらなかったろう。
そもそも、衆院を「第1次院」、参院を「第2次院」と解釈する伝統的な学説には、憲法上の根拠が明確ではない。明確な根拠があれば、「ねじれ国会」も生じないだろう。現行憲法では衆参の力関係が拮抗して、問題が生じかねないから、「権威」による解釈で憲法の不備を補おうとしてきたのではないか。衆参のあり方を変え、両院の力関係に差をつけたいのなら、学者の権威に頼らず、憲法改正を議論するところから始めるのが国会本来の姿だろう。
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