被災地の思いが再起への力
大阪本社運動部 柔道担当 清水 裕
被災地の思いを背負って臨んだ初の大舞台は、わずか63秒で終わってしまった。
8月末にパリで開かれた柔道の世界選手権。女子63キロ級に初出場した阿部香菜(三井住友海上)は1回戦で左ひじを脱臼し、1分3秒で棄権敗退した。
「何も出来ないうちに終わってしまって、悔しい気持でいっぱい。応援してくれた人たちに申し訳ない」と、涙声で語った。
つらく苦しい半年間だった。3月11日、東日本大震災で宮城県石巻市の実家が被災。3階建ての1階部分が津波の被害に遭った。当時は東京で強化合宿中。柔道どころではなく、心配ですぐにでも帰りたかったが、家族からは「戻ってこなくても大丈夫だから。柔道を頑張って」と逆に激励された。
そんな家族らの言葉が励みに、そして力になった。4月の世界選手権最終選考会で優勝。それまでは全く無名の存在だったが、初の大舞台への出場を決めると、6月にはブラジルの国際大会で勝つなど急成長を遂げ、園田隆二・女子監督からも「世界選手権では金メダルを狙える」と期待されていた。
その後、帰郷した際には恩師や友人らから「香菜が頑張ることで、明るい気持ちになれる」と声を掛けられ、「みんなの思いを力にしたい。優勝してロンドン五輪につなげたい」と意気込んで挑んだ世界選手権だった。
しかし、本番では、まさかの悲劇に見舞われた。エスピノサ(キューバ)に背負いで担がれ、投げられまいと左手を突いた際に痛めてしまった。激痛に顔をゆがめ、立ち上がることも出来なかった。審判が試合続行は不可能と判断。初戦で敗退した。
試合後の記者会見。左腕を三角巾でつった姿は痛々しかった。「両親や応援してくれた皆さんに勝つところを見せたかった」と声を詰まらせながら、「一から出直し、また大舞台に戻ってきたい」と雪辱を誓った。
この半年間の経験を今後にどう生かしていくか。23歳の言葉を信じ、これからの柔道人生を見守っていきたい。
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