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「法の下の平等」原則に例外あり?

研究員の顔ぶれ

調査研究本部主任研究員 池村俊郎

 ニューヨークの高級ホテルを舞台に、国際的な著名人で仏有力政治家のドミニク・ストロスカーン被告が起こしたとされるレイプ容疑事件は、発生からほぼ2か月経ち、被害者とされるホテル女性従業員の証言にあいまいな点があるとして、米司法当局者が公判維持に不安を漏らすなど、紆余曲折が続いている。

 ストロスカーン被告は国際通貨基金(IMF)トップだった人物だけに、「冤罪」であったら、米司法当局の大変な汚点となる。被告は、「無実」を主張しながらも、IMFトップを辞任した。来年の仏大統領選挙では野党勢力の期待を背負う有力候補とみられていた。過去の経歴ばかりか、予想されたバラ色の将来まで全否定されたわけだから「無実による賠償請求」でもなったら、算定額は青天井ものだろう。

 それでも、米メディア報道には、被告が滞在した1泊20万円以上のスイートルームで何も起きなかったわけではなさそうだとの論調が目立つ。いまのところ、最終決着を見守るしかない。

 この一件をめぐり、米仏両国の政治・社会・メディアで受け止め方がいかに違うか、最新の中央公論8月号に論考を掲載したところ、日本のホテル業界に詳しい人から「あのような不祥事は東京の高級ホテルでも無縁なことではない」という指摘をいただいた。「外国人滞在者から従業員が猥褻な行為を迫られ、警察に届けるべきかどうか議論になったことが一度ならずある」のだという。

 そんな不届きな宿泊客ならば決然と告発するよう望みたいし、政府が外交官を国外退去させる時に使う「ペルソナ・ノン・グラータ」と名指し、どのホテルも2度と受け入れないようにできないものか。

 その点、アメリカはしつこい。たとえば、1960〜70年代に米映画界で活躍し、最近でも映画「戦場のピアニスト」(02年公開)でアカデミー監督賞を受賞したロマン・ポランスキー監督(仏国籍)について、滞在国のフランスを始め、関係国に身柄拘束を求め続けている。かつてアメリカ滞在中、未成年者に性行為を強いたとして有罪になりながら、映画撮影を理由に一時出国し、2度と戻ってこなかった。しかも、無実を主張し続けている。米司法当局は映画人としての才能がいかに高かろうと、過去の行いを問い続け、身柄拘束をあきらめていない。

 逆に仏政府は鬼才といわれるポランスキー監督を保護するがごとく、米側の要求を一切はねつけている。もしも、これが何の才能もない凡人が相手であったならば、仏側の反応もどうだったか。

 正邪の判断が文化、価値観、伝統、法律の異なる国同士で必ずしも一致しないことは当然あるだろう。しかし、不祥事の当事者が著名人や才能ある芸術家の場合に扱いが露骨に異なるとなったら、「法の下の平等」原則はどこかにいってしまうことになる。

2011年7月14日  読売新聞)

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