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巨艦を離れ海外に活路

NTTデータ社長 山下 徹(やました・とおる) 64歳

 <希望がかなわず、電電公社に入社した>

 大成建設に勤めていた父を小学2年生の時に亡くしました。家の近くに父が造ったビルがあり、歴史に残る仕事がしたい、大学で都市工学を学んで都市設計に携わろう――と不動産・建設業界を志しました。

 ところが、入りたかった会社が採用を止めていました。途方に暮れていた時、指導教授が、「将来は情報システムがいろいろな問題を解決する、電電公社ならいずれやりたいことができる」と助言してくれました。

 入社はしたものの、通信は素人。配属された札幌では飛び交う専門用語も理解できない。3年我慢して辞めよう、と考えていました。

 ただ、コンピューター関係の仕事ならこなせるかもしれない。入社当時からの希望がかない、データ通信本部に異動しました。実はコンピューターのシステム設計は、背景にある理論が都市づくりと似ていて、学生時代に学んだことが生かせることがわかりました。不動産登記や情報検索のシステム構築などを任されているうちにやりがいを感じ始めました。

 <分社化を決断する>

 入社14年目の1984年。「調査役」の肩書だけで、担当が書かれていない辞令が出ました。「データ通信を切り離すべきかどうか検討しろ」。上司から口頭で告げられました。辞令を受け取ったのは30歳代の3人です。データ通信本部で育った若手で将来を考えろ、との狙いだったようです。

 20年間も赤字だったのに独立できるわけがない。社員のほとんどは反対だったと思います。極秘プロジェクトですから、人目を忍んで議論を繰り返しました。2か月後に分社化すべきだとの意見に達しました。

 電信電話部門の黒字でデータ通信本部の赤字を穴埋めするのは不公平だ。国内では批判が強まっていました。日米通商摩擦が深刻化し、日本のシステム業界も対外開放を迫られていたという事情もありました。我々も、公共性の高い電電公社の傘下にありながら、特定の顧客のためにシステムを作ることに違和感を感じていました。

泥船と皮肉られ

24年前 1987年夏、分社化に向けて準備を急いだ。真藤社長(当時、中央)と八ヶ岳の山荘でミーティングも開いた(山下氏は前列右)

 戦艦大和から出て行く泥舟――。分社化に対する社内の反応は冷淡でしたが、真藤恒(しんとうひさし)総裁(当時)に決意を伝えると「ようやくわかったか」。結論を予想していたようです。

 85年には電電公社の民営化もあり、88年にNTTデータ通信として再出発するまでのわずかな時間で不採算部門を整理し、必死で新規顧客を開拓しました。

 分社化した初年度の営業黒字は予想外でした。みんなで祝杯をあげました。売上高は現在まで増収を続けています。

 <グローバル化にかじを切る>

 最大の危機は2004年以降、官公庁がシステムの発注方法を見直し、ほとんどは我々が作っていたシステムを他社にも発注を始めたことです。

 当時は公共部門担当の副社長でした。このままでは生き残れない、海外に活路を求めるしかない、と判断しました。今では当然ですが、当時はほとんどの社員が厳しい競争を迫られる海外展開には反対でした。官公需に依存し続けてきたためでしょう。

 1年以上かけてNTTデータの管理職2000人以上と会いました。取引先の地方銀行も米シティバンクと戦っている。海外を知らない我々に仕事をくれるだろうか――。そう説きながら、手始めに05年7月に欧州の大手ITサービス企業と提携し、海外事業の強化に乗り出しました。今や海外部門が収益を支えています。

震災で悔いも

 東日本大震災では東北のデータセンターは無傷でした。ただ、我々のIT技術を防災分野でも活用していれば、多くの人を津波から守れたかもしれない。今も悔いが残ります。安全、安心を守る仕事にもっと注力することを目指しています。

 (聞き手・川嶋路大)


(略歴) 1947年、神奈川県生まれ。71年東工大工卒、日本電信電話公社(現NTT)入社。システムエンジニアとして不動産登記などのシステム開発に携わる。88年にNTTデータ通信に移り、2007年6月から社長。趣味は自宅でのバラ栽培。

《こんな会社》

 金融機関、官公庁などのシステム開発・運営に強みを持つ。情報サービスでは国内最大手。1967年に電電公社のコンピューター部門としてスタート。88年にNTTから分社して「NTTデータ通信」となり、98年に「NTTデータ」に社名変更。連結子会社数は2011年6月末現在で231社。このうち海外子会社が152社を占める。グループの従業員約5万5000人のうち2万4000人は海外に勤務する。

2011年10月28日  読売新聞)

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