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第12回 金は良い召使であるが、悪い主人でもある

思うこと、願うことの大切さ

 サッカー・アジア杯で日本が4度目の優勝を遂げました。勝利を決めた李忠成選手のボレーシュートは鮮やかで、見ている人に鮮烈な印象を与え、記憶に残るシーンでした。

 彼はプロの世界に入ってからも、ずっと控え組で、活躍の場を求めて移籍までした選手です。そして、こんな大きな仕事を成し遂げたのです。途中出場でワンチャンスを活かす。その秘訣は、彼のコメント「最後に俺がヒーローになると、毎日、思い続けていた」にあると思います。まさしく、大事を成就するにはこうした思うこと、願うことが大切で、ベンチの中でも彼は気持ちを持ち続ける努力を続けていたのです。第1回「千里の道も一歩から」で資産つくりの第1歩は「思うこと、願うこと」と述べましたが、資産つくりの極意にもつながるコメントだ、と思いました。

 日本がサッカーの勝利に沸きかえっているとき、エジプトではムバラク大統領の辞任を求める市民運動が大きなうねりとなって、大規模なデモが連日行なわれ、緊張が高まっていました。その動きは今でも収まらず、首都カイロの都市機能が麻痺状態になると、投資の世界では安全資産への避難も始まりました。有事のドル買い、そして円やスイス・フランが高くなり、外国為替市場にはさっそく影響があらわれています。スエズ運河の管轄がエジプトなので、原油価格もじり高歩調に転じています。まさに第4回「一寸先は闇」を実感する出来事です。

生活の礎をまず確立

 さて、「ことわざ投資入門」も今回が最終回です。「これから資産運用を考えようとしている人」「これから金融資産を作ろうと考えている人」に「マネー・マーケットに対峙する心構え」を伝えることを念頭に拙文をつづってまいりましたが、少しはお役に立つところがあったでしょうか?

 私の考え方の基本は「額に汗して働いて得たお金は尊い」です。そのためには生活の礎を確立しよう、生活を失うような投資はすべきではない、と思っています。元本確実な貯蓄で年収の半分をまず確保し、元本が変動するような投資はその後に、と述べてきました。「命金には手をだすな」です。

 一方で、なぜお金持ちにならなければならないのか?という点については「恒産なければ恒心なし」だからだ、と述べてきました。お金を持つということは、つまりは自分の尊厳を守ることにつながるからです。詳しくは第9回「失われた時間、永遠に戻らず」に述べていますが、経済面の制約から不本意な判断をせざるを得ないような事態は避けよう、それが自立した生き方だと思うからです。

 たしかに、世の中には資産家にあって、生まれながらにしてお金の心配をしなくともいい人はいます。そういう方がお金の面から不本意な生き方をせざるをえないということはないでしょう。そういう境遇の方の金銭感覚について私は知りませんので、このコラムでふれることはできません。なぜなら、自分が知らないのですから、知らないことは礼賛も批判もできないからです。

 ただ、労働の価値を知らなければ、お金の重さは理解できないだろう、ということは言えます。働く経験をもてば、物を買う時に自分ならどれほどの労働時間に匹敵する金額か、実感として理解できます。自ら働いていれば、価値の基準をもてるのです。自分の生活水準に即した金銭感覚を身につけることが可能になります。たぶん、こうした金銭感覚は人生の中盤から後半にかけて大きな財産になっていくのではないでしょうか。

人生の幅を広げよう

 お金の重さを理解できた人は、人生で他人に騙されることもなくなるだろうとも思います。すくなくとも金融詐欺に引っかかることはないでしょう。なぜなら、物の値段の価値を肌で理解しているのですから、うまい話の裏にある罠を直感で見抜くことができるはずです。

 投資で失敗して、お金を失っても、それは自分の判断で行なったことですので、自分の責任ですから、悔しさと一緒に納得した部分は残ります。しかし、詐欺にあったら残るのは悔しさと自己嫌悪だけです。

 お金を貯めることの価値は、お金を使うことにあることも述べてきました(「第1回「千里の道も一歩から」)。上手に貯め、上手に殖やして、上手に使って人生を豊かに生きる、そうすれば「人生の幅」が広がり、人間性も豊かになるのではないでしょうか。「知識は力なり」で知られるイギリスの哲学者フランシス・ベーコンは「金は良い召使であるが、悪い主人でもある」と述べています。

 みなさんが資産家といわれる日が来ることを楽しみにしております。

芦田光玄 証券業界での仕事が40年になるベテラン。個人営業を振り出しに、企画・調査部門を約20年。その後、支店長を複数歴任し、営業の現場にも深い経験を持つ。公的機関に出向したことも2度ある。大手証券を離れた後は、資産運用に5年間携わった。日本証券アナリスト協会・検定会員。

「ことわざ投資入門」は、通常、隔週木曜日、午前中に更新します。

2011年2月3日  読売新聞)

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