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債券の格付け 初歩の初歩

 東京電力が発行する債券、いわゆる電力債の格付(外資系格付会社のスタンダード・アンド・プアーズ社による格付)がBB+まで引き下げられた、というニュースをご記憶の方も多いと思う。これによる各方面への影響は、道場主がいろいろなメディアで解説しているので、そちらをご覧頂くとして、ここでは債券の格付けについて、ごく初歩的な説明をしよう。

 債券の格付けというのは、債券の利息と元本の支払いの安全性を、AとかBなど単純な記号で段階的に表したものである。ここの債券に格付を付与するのは、これを専門に行う格付会社で、格付機関と呼ばれることもあるが純粋な民間企業である。格付会社は、債券の発行体の財務内容、事業展開、経営者へのヒアリングなどによって、債券・債務の元利払いの確実性、すなわち信用リスクについて評価を行う。代表的な格付会社としては、スタンダード・アンド・プアーズ、ムーディーズ、フィッチがあり、他にわが国では格付投資情報センター、日本格付研究所の格付も利用されている。

 格付の記号は、債務履行の確実性が最も高いものにはAAAあるいはAaa(トリプルAと呼ばれる)が付与され、以下、AA(Aa)、A、BBB(Baa)、BB(Ba)と続き、債務不履行に陥っていたり、その可能性が極めて高いものにはCあるいはDが付けられる。

 「+」や「−」の付加記号は、同一格付け内を3等級に細分化する記号で、これが付くと、AA+なら「ダブルAプラス」、AAは「ダブルAフラット」、AA−は「ダブルAマイナス」と呼ぶ(ムーディーズの付加記号は1〜3なので、例えばAA1は「ダブルAワン」と呼び、AA+に相当する)。なお、格付会社ごとにその表記には若干の違いがあるので、同じ記号であっても必ずしも同じ意味でない場合もある。

 スタンダード・アンド・プアーズとムーディーズの2社の場合、BBB格以上の格付は投資適格(Investment Grade)とされ、現状においては元利金の支払い能力に不安がないことを意味する格付とされる。一方で、BB格以下の格付は“投資不適格”ではなく、投機的格付(Speculative Grade)とされている。格付が低ければ、それだけ信用リスクが高いということなので、BBB格以上の債券よりもBB格以下の債券の方が、利率や利回りは高くなる。しかし、“投機的格付債”では、いかにも聞こえが悪いので、一般には高利回り債とかハイ・イールド・ボンドと呼ばれている(知らずに買っている人もいるのでは?)。

 ここで是非とも注意しておいて頂きたいのは、格付は債券・債務の元利払いの安全性に関する、あくまでも「参考意見」であって、「保証」を意味するものではないということだ。また、格付は発行体の財政状態や経営状況の変化によって適宜見直しが行われ、変更される。つまり、AAA格だといっても、元本保証のお墨付きを得ているわけではないのだ。

 では、格付を決める最大のポイントは何か。債権・債務、つまり借金の返済能力を見る場合、どうしても資産、つまり担保をどれだけ持っているかに目が向きがちだが、実は発行体の収益力が最大のポイントだ。それから、発行体の倒産の可能性ということも、あまり決め手とはならない。筆者は入社したての頃、国には徴税権があるし、電力会社などの公益インフラ企業は倒産させるわけにいかないから、これらの信用力を評価する意味がどこにあるのかと思ったりもした。しかし、実は発想が逆で、これらの発行体は経営が苦しくなったからといっても、おいそれと解体・倒産させるわけにいかないから、債券の保有者を含めた債権者に無理を言う、つまり元利金の返済の停止や猶予、さらには減額さえ求める可能性があるので、信用力(それを支える収益力)をしっかり吟味する必要があるのだ。東京電力という企業がなくなる可能性は極めて低いと考えられるのに、政府高官が債権放棄に触れたとされることが契機になって、急激に格下げされた。これは、こうした理由によるのである。

 東京電力の格付がBB+に引き下げられた直後、インターネット上では、「東京電力が“投機用電力”に」という書き込みが踊っていた。世の中には上手いことを言う人がいるものだと、つくづく思った次第である。

 (道場師範代・服部 哲也)

「山崎道場」は通常、毎週木曜日、午前中に更新します。

2011年7月7日  読売新聞)

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