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"3階建て"も出てきた通貨選択型ファンド

 通貨選択型ファンドが登場したときには、率直に言って良くも悪くも衝撃を受けた。

 第1号は米国のハイ・イールド債券に投資するファンドだったのだが、当時はリーマンショックの悪夢も醒めやらぬ時期。先行きに対して悲観的なムードが支配する中、2桁台まで利回りが上昇(価格は大幅下落)していた米国のハイ・イールド債市場に果敢に打って出たのは慧眼だと思った。一方で、為替ヘッジプレミアムを取るという考え方は当然知ってはいたが、同時に、理論的には、これは長期的にはなくなるものだと教わっていた。かつて投資信託の商品企画にも携わったことがあるが、長期投資を旨とする投資信託でこれを使おうという発想は筆者にはどうやっても思いつかない。その意味では感心もしたものだ。

 通貨選択型ファンドは、今や1つのジャンルを形成したといっても過言ではないくらいに本数、残高ともに増えているが、もう少し大きな目で見ると毎月分配型ファンドの1ジャンルに過ぎない。もちろん例外はあるし、年2回決算つまり半年ごとに分配金を出すタイプもあるが、大半は毎月分配型とセットで発売される。

 ここで毎月分配型ファンドの系譜について少々ひもとくと、もともとの毎月分配型ファンドは外貨建のソブリン債(国や国際機関が発行する債券)から始まった。これがヒットすると、各社が追随した。具体名を出すと、国際投信投資顧問が設定・運用するグローバル・ソブリン・オープン、通称グロソブが老舗だ(厳密には、元祖あるいは本家ではない)。これに追随して他社が出したファンドは"ニセソブ"と呼ばれたりもした。その後は、より多くの分配原資を求めて、投資対象はハイ・イールド債、エマージング債、リート(不動産投資信託)、さらには高配当株などに幅を広げていった。しかし、世界は広しといえども、単純に投資対象の幅を広げることには限界がある。それでも投資家は多くの分配金を求める。そこで、分配原資をさらに上積みする方法が考えられた。そして登場したのが通貨選択型ファンドだ。

 前回、通貨選択型ファンドは2階建てだと書いたが、ついに3階建てが大々的に発売された。野村證券が募集した、「野村グローバル高配当株プレミアム」(設定・運用は野村アセットマネジメント)がそれだ。このファンドは、円コースと通貨セレクトコース、それぞれ毎月分配型と年2回決算型があり、4ファンドで構成される。さる11月18日に設定され、4ファンド合計で約545億円を集めた模様だ。これまでの通貨選択型ファンドに比べるとやや小粒かも知れないが、募集環境が厳しいので、今年の新規設定額ベスト10にランクインするだろう。

 同ファンドの通貨選択型の特徴としては、これまでのようにブラジルレアルや豪ドルなどのコースが用意されているのではなく、ファンドマネージャーがファンダメンタルズや流動性などを考慮して、相対的に金利が高い5通貨を選定して米ドルに対して為替ヘッジを行うという点があげられる。つまり、いろいろな通貨のコースを並べて投資家(実際は販売員か)に選ばせるのではなく、運用会社が自ら選ぶという意味では文字通り運用会社が運用するファンドとも言える。

 そして、このファンドの最大の特徴は、単なる高配当株の組み入れた通貨選択型ファンドということではなく、組入銘柄のコール・オプションを売却することでオプション・プレミアム収入を獲得する「カバード・コール戦略」が行われる点だ。

 つまり、もともとの毎月分配型ファンドに、為替ヘッジプレミアムというもう一つの要素が加わったことで、「1階建てから2階建てになった」のが、今回は、さらにオプション・プレミアムが加わったわけで、その意味で2階建てから3階建てが登場したとも言える。

 ただし、オプションについての詳しい説明は割愛するが、カバード・コール戦略を採用するということは、プレミアムを獲得できる半面、トータルでの上値は限定されてしまう。株式相場の上昇を放棄しているとも受け取れるので、伝統的な証券会社の営業姿勢からすると、これはかなり興味深い。確かに分配原資は増えるかも知れないが、トータルで考えると、天井の低い3階建てでもある(だからといって、リスクが小さいわけではない)。

 3階建てファンドをお客に販売するためには、組入証券、為替プレミアムに加えて、オプションについても説明しなければならない。つまり、説明要素が通貨選択型ファンドよりもさらに多いので、今のところ販売会社の裾野が銀行にまで拡大するとは考えにくいのだが、もしかしたらどこかのメガバンクは勇気を振り絞って参入してくるかも知れない。

 最後に、当ファンドに一言苦言を呈したい。オプション・プレミアムのことを"株式プレミアム"とネーミングしているのは感心しない。あれはあくまでもオプションの売りによって受け取る代金だ。組み入れる株式それ自体にプレミアムが付いてくるような誤解を招くのではないだろうか。もっとも、すでにプレミアムが付いているとしたら、それは割高な株だと言うことになってしまうのだが。

(道場師範代・服部 哲也)

「山崎道場」は通常、毎週木曜日、午前中に更新します。

2011年12月1日  読売新聞)

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