現在位置は
です

投資信託

一覧
本文です

新興国株式投信、逆風での資金動向

 2011年は世界の株式市場ほとんどすべてが苦戦した1年でしたが、とりわけ新興国の株式は下落に悩まされました。

 追加型株式投資信託のうち新興国株式に投資を行なう投資信託で1年以上の運用実績があるもの2011年12月末時点で278本ありました(ETFと、確定拠出年金・SMA口座など専用投資信託は除外、純資産規模での限定はしない)。その中で最も運用成績が良かった「アムンディ・インドネシア ファンド《ガルーダ》」(アムンディ)でも1年の騰落率(税引き前分配金込み)はプラス3.7%、続く「オーロラファンド タイ投資ファンド」(野村アセット)がプラス1.7%で、マイナスでは無かったのはこの2本だけでした。

 一方、下落が著しかったインドの株式市場に投資する投資信託では、特にインフラ(社会基盤整備)関連の株式に限定して投資をする投資信託の下落が大きく、最大の下落となった「HSBC インド・インフラ株式オープン」(HSBC投信)は、1年でマイナス64.4%の下落でした。同じインド型でも内需関連の株式に投資する「PCAインド消費関連ファンド」(PCAアセット)はマイナス26.5%でしたから、投資する業種・セクターによってかなり大きな差が出る相場だったようです。

 しかし、下げている時にその市場をよく見ておくことも、長期での運用では大切なことです。今回は、この下げ相場で新興国株式に投資する投資信託が、どのような資金流入状況だったかをチェックしてみましょう。



「流行」に踊る新興国株投信

 運用実績が1年以上ある投資信託のうち、過去1年間の資金増加額が最も多かったのは「ピクテ新興国インカム株式ファンド(毎月決算型)」(ピクテ投信)で、約966億円の資金増加でした(1か月の流入額から流出額を差し引いた純流入額の12か月の合計)。2位の「PCAインドネシア株式オープン」(PCAアセット)は約135億円でしたが、1年で100億円以上増加したのはこの2本のみでした。50億円以上の資金増加となった投資信託は上位6位までで、スタートしてから時間がたった投資信託への資金流入に勢いはありません。

 上位5本を見ると、先に挙げたトップの投資信託以外は、インドネシア、インド、中国圏など、すべて特定の国や地域に投資するタイプのものです。新興国株式に投資する投資信託では、上位30本中半数を占める15本が単一国または特定地域(中国圏など)に投資するものでした。新興国株式型で本数が多いのは中国関連やインド、ブラジルなどの株式に投資するタイプですが、これらの国々はある時期に急にニュースなどで投資の対象として語られたことを覚えている方もいらっしゃるでしょう。投資地域を限定すると、投資信託がスタートする前後でのセールストークがしやすく、投資家も話を聴いて具体的にイメージしやすい、つまり売りやすいという特徴があります。その結果、次はブラジル、アラブ、ベトナム、アフリカなどと、あたかもファッションのように次々に「流行」の投資先が変わっていくわけです。

 このところ流行の兆しを見せているのは、インドネシアやトルコ、東南アジアなどのようです。

下げても売れる、低コスト「インデックス」

 一方で、注目したいのは、前回取り上げた「インデックス投資」の対象となるような、低コストの投資信託が上位30本の中に5本も入っており、Top10にも2本ランク入りしていることです。6位の「eMAXIS 新興国株式インデックス」(三菱UFJ投信、資金増加額は1年で53億円)と、8位の「STAM 新興国株式インデックス・オープン」(住信アセット、同23億円)がその代表格です。

 このような低コストのインデックス運用の投資信託は、若い投資家が自分の資産形成をするために毎月積み立てのように購入したり、安くなった(下落した)タイミングで追加投資をするなど、長期保有を前提とした使い方をする投資家が多いようです。ですから市場が冷え込んでも、あるいはあえてセールスをしなくても、資金が流入し続けます。全体に既存投資信託への資金流入が減速する中で、毎月堅実に資金が流入するので、結果的に下落した時期にはコンスタントな資金増加が目立つわけです。

 また、Top30には、確定拠出年金などでも採用されている(専用ファンドではない)ものも、同様のことが言えます(日興アセットの年金積立シリーズなど)。年金の掛け金で毎月積み立て購入されるので、流入は少額ですが逆風の環境で資金流入を支える力になります。

新しいほど売れる

 さて、6位にインデックス投資信託がランク入りするほど、逆の方向から見ると「(新ファンドのときに)あれほど営業していた新興国株投信は、みんなどこへ行ってしまったのだろう?」という状態でもあります。何しろ278本中245本が1年間の資金増減を見ると資金減少(純流出)になっています。増加しているものでも、その勢いは振るわず、26位の投資信託で資金増加額は1億円以下になっています。

 では、新しい投資信託では資金動向はどうなっているでしょうか。スタートして1年経過していない新興国株型の投資信託は、12月末時点で53本ありました。この中で、設定来の資金増加額が100億円以上のものが、13本もありました(スタート時の当初設定資金も入れて)。そして53本全てが、スタート以来の資金増減でマイナスを免れていました。新たな投資資金が、いかに新しい投資信託に集中して流れているかが明確に現れる結果です。

 投資対象を見ると、ここでもほぼ半数が単一の国や特定地域に集中投資をするタイプです。先に挙げたトルコや東南アジア、インドネシアなどのほか、「流行」は去っても、中国圏やインドなどに投資するものもあり、これらの国々は投資先として定着したようにも見えます。

 投資先の選択肢が増えるのは喜ばしいことです。しかし、重要なのは、新興国株式への投資でも、地域やテーマへの集中投資がいかに魅力的に思えても、その分リスクが高くなるということです。今回の新興国株式市場の下落体験をふまえて、どんなに人気のある(あった)市場でも、逆風が吹けば大きく下がることを忘れないでおきましょう。そして、いつか市場の動きが反転して、長期では新興国の経済も、投資した資金も大きく育つことを夢見たいと思います。

(イボットソン・アソシエイツ・ジャパン(株) 月刊「投資信託事情」編集長 島田知保)

 ◇投資信託の検索は「投信まとなび」

2012年1月19日  読売新聞)

 ピックアップ

トップ
現在位置は
です