「きびそ」でバッグを作ろう! 第5回 無理と言われた「きびそ」を織る
「きびそ」を織る――だれもが「無理」と思っていたことを、実現してしまった人がいるからこそ、今の「きびそ」プロジェクト、そして、今回の大手小町のきびそバッグ作りがあります。その人は、世界的なテキスタイルデザイナー須藤玲子さん。
東京・六本木のショップ「NUNO(布)」に、須藤さんを訪ねました。ショップには、色も素材も多種多様な布が、壁一面に積まれています。
「輪ゴムがくっついてとれなくなるのを見て、布にできないか、と思って」作ったという布は、表面に輪ゴムそっくりな輪が並んでいて、手触りもそっくり。アルミの布があれば、「もともとは紙を織り込んで、今は、紙に見えるポリエステル製」という布も。「雨どいのさび」からヒントを得たという「さび染め」は、本物のさびが実に美しく模様として布に広がっています。
一つ一つがまさしくアート。それもそれはず。須藤さんの作品は、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館はじめ国内外25館に永久保存されています。金属だって、紙だって、何でも布に仕立てていた須藤さんを、前回ご紹介した岡田茂樹さんが山形県鶴岡市に誘ったのは、2007年のことでした。
「今まで無かった」素材に“メラメラ”
「きびそ」を初めて見たときどう思いましたか?
これは何なんだろうって思いました。工場の隅に1メートルくらいの長さでプツプツ切って束ねられていて、ぱっとみると白い白樺の小枝のような束みたいでした。全くシルクには見えませんでした。そのスティックみたいなものがそのまま織れたらすてきだろうな、って思ったんです。
あの太い「きびそ」が織れると思ったんですか。
はい。もちろん鶴岡の人たちは「絶対織れない」と言っていましたが、私はステンレスを織った経験もありましたし、絶対にできると思いました。
今まで無かった素材と聞くと、メラメラしちゃうんです。なんとか布にしてみたいなあ、と。ダメって言われると「そんなことないよっ」て思っちゃいます。ステンレスを布にしたときもそうでした。
最初は「無理だよ」から始まるんですが、そうなると「こうしてみたらどうかな」というやり取りが発生し、いろんな人や意見が集まってきます。そうすると動かした以上、こちらも後にはひけなくなってはまってしまう。これが一番大きいのかもしれません。
どうやって実現したのですか?
最初にステンレスを織った職人さんのところへ「きびそ」を持って行きました。でもやっぱり、原糸のままのきびそは太くて織れなかったんです。
どうしたらいいだろうと、「きびそ」に触っているうちに、さきイカのように「きびそ」を裂いて、細くして織ってみたらどうだろうと思ったんです。
ちょうどそのころ、教えている東京造形大学で、昔の織機が今の学生の体格には小さすぎて処分することになったので、それを鶴岡に運んでいきました。
一線を退いた人たちに活躍してもらいたいとの思いから、絹織物業「松岡」を退職した皆さんにお願いすると、家の土間とかに置いてくれて、手織りチームがスタートしました。現役時代の織りの高い技術も健在でしたし、1年半近くかかりましたが、機織機を使って「きびそ」を織ることに成功したのです。
その布がハンティングワールドの目に止まり、作ったバッグ(約12万円)がこれ。「きびそ」製品第一号です。ただ、残念ながら1回で終わってしまいました。
紫外線吸収力など機能にも魅力
「きびそ」の魅力は何ですか。
「きびそ」が持っている、紫外線吸収力などにも魅力を感じました。今までのシルク製品はなめらかさを出すために、紫外線吸収力のあるセリシンを落として製品にしています。「きびそ」はそういった機能を残しているため、自然が持っている力が凝縮されている素材なのです。ちょうど今、紫外線吸収効果に注目して、室内用ブラインドに使ってみようとしているところです。
アメリカ・ニューヨークのクーパー・ヒューイット国立デザイン博物館(スミソニアン博物館のデザイン建築部門)が開いた「WHY DESIGN NOW?」という展覧会で「きびそ」も取り上げられました。これから先、10年や20年後のデザインを考えるテーマの中で、本来素材にならないようなものを捨てずに使う点などが評価されています。
今後、きびそをどのように育てていきたいですか。
麻やウールなど、違う素材を組み合わせて今までにない布を製品化していきたいですね。きびそやシルクにはまだまだ可能性が眠っています。精錬する際に落としてしまうセリシンの溶液を再利用する方法を考えるなど、様々な可能性を探っていきたいです。
そのためにも、何とかして日本のシルク産業がなくならないように、と願っています。かつて繊維は日本の主要産業だったのに、麻も、ウールも綿も、無くなるのはある程度仕方ないとは思いますが。日本人は本当に手先が器用で、海外にまねのできない技術が残っているのを失いたくありません。
鶴岡では、30代の若い人たちが働いているのが印象的です。若い世代がきちっと仕事していて、次の世代につながると期待している産地の一つです。
(大手小町バッグで使う帆布の試し織りを見てもらいました。)どうでしょうか?
綿の帆布にはない風合いですね。きしみがいい。帆布の丈夫さとシルクでないと出ないしっとり感が両方味わえます。伸縮性もあって不思議な風合いですね。バッグがどんなものになるか、とても楽しみです。
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⇒「きびそ」でオリジナルバッグを作ります!
ファッションブログでも関連記事が読めます。
⇒「きびそ」の企画を思い立った理由
⇒カイコとの出会い
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