スケールの大きい「お宝探し」
『封印された系譜』 ロバート・ゴダード
(講談社文庫、上下各943円、北田絵里子訳)
今さらゴダードかあ……わざわざ巨匠を紹介しなくても、と思ったけど、外れなく面白かったから、さくさく行きましょう。
パターンは、ゴダード十八番の、過去と現在を行き来する謎解き。今回のネタは、ロシア皇女・アナスタシアを巡る伝説です。鍵になるアタッシェケースを巡って、主人公のリチャード・ユーズデンが北ヨーロッパ各地を走り回るのですが、まあ、忙しいこと。
あまりにも移動距離が長く、訪れる国が多いので、旅情ミステリー的な味わいさえあります。取材旅行、楽しかっただろうな。
主人公のユーズデンが、何ともいい感じ。人生に疲れた中年男が、古い友情のために次第に熱くなって、自分とは縁のない無茶な世界に飛び込んでいく姿が胸を打ちます。旧友であるマーティーの、どうしようもないけど憎めないキャラも秀逸。途中退場が残念だぜ。
軸になるアナスタシアの伝説ですが、これがまあ、ほぼ20世紀中ずっと、好事家の興味を引いていたという、スケールの大きい話。
「大津事件」で日本とも縁の深いロシア皇帝・ニコライ2世の娘、アナスタシアが、ロシア革命後の一族惨殺を実は生き延びていた、という説です。
諸説紛々で、「アメリカ在住の本人にインタビューした」というふれこみのノンフィクションも出版されていますが、真相は闇の中。この謎に、手だれのゴダードが正面から突っこんだわけです。
読んでいてふと思い出したのは、ハメットの「マルタの鷹」でした。ハードボイルドの原点ですが、実は「お宝探し」の一点で、本書と共通しているんですね。ハメットは鷹の像、ゴダードはアタッシェケース(本当はその中の○○=ネタバレなので書きません)ですが。
似たような背景を持っていても、読後感は全く違う。これが小説の不思議さってもんですかねえ。
親友の頼みで古いアタッシェケースを預かったユーズデンは、巨大企業の絡む陰謀に巻きこまれる。
めくるめくスピード感と、知的な謎解き。マイナス15点の理由=ちょっと説明的過ぎるかな。
堂場瞬一:1963年生まれ。警察、スポーツ小説で活躍。代表作に「刑事・鳴沢了」「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズ。
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