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『七十二時間、集中しなさい。』 丹下憲孝さん

世界的建築家の素顔

 東京五輪の国立屋内総合競技場、中東の都市計画などを手がけた世界的な建築家、丹下健三氏が没して6年。2代目の長男が回想記を出した。

 「仕事には厳しいが、父親として、人間として温かい人だったことを知って頂きたい。そしてご自分の家族の絆も再認識してもらえたら」 

 本書の題名は、並外れた集中力で仕事や勉強に取り組んだ父の言葉。世間からは孤高の人と見られたが、意外にも家庭ではテレビの「水戸黄門」やジャッキー・チェンの映画を好んだ。息子のアメリカ人のガールフレンドに会い、すぐに人柄を認めると「僕の息子と結婚してはいかがですか?」と代わりにプロポーズ。身内ならではの逸話が明かされる。

 過去の建築にこだわらず、解体にも淡泊だと言われた。「それは変な執着を見せたくないという、父のダンディズム。何も感じなかったかと言えば、違うと思います」。同じ建築家として胸中を察する。

 洗礼名のパウロにちなみ、「ポール」と呼ばれた息子は高校からスイスに留学。米ハーバード大の大学院で建築を学び、父の事務所でフジテレビ本社ビルなどを担当した。今は「丹下都市建築設計」社長として、世界で30件以上の仕事を進める。東京・新宿に異彩を放つ「モード学園コクーンタワー」でも注目された。

 父が健在な時代、すべての建築は「丹下健三」の作品として発表された。跡を継いでからはスタッフの個性を重視し、「設計事務所として質の高い建築を提供したい」と語る。

 1メートル85の長身と、人をそらさない語り口が印象的。「言葉では言わなくても、父から細やかな気配りとサービス精神を学んだ」。偉大な父の教えは生きている。(講談社、1500円)(高野清見)

◆次回は『村から工場へ―東南アジア女性の近代化経験』(NTT出版)の平井京之介さんの予定です。

2011年3月29日  読売新聞)

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