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『下北沢祝祭行』 大木雄高さん

酒場は文化の起点

 主演映画「家族ゲーム」の米国での成功を興奮して語った松田優作、彼の遺志を継ぐために音楽活動を休み、俳優に専念する決意を告げた石橋凌……。

 映画や音楽に限らず、登場する著名人は枚挙にいとまがない。その数、約800人!

 若者の街、東京・下北沢にジャズ・バー「レディ・ジェーン」を開いて36年。ライブの企画なども手がけるオーナーが、客や仕事相手として出会った人々との交流や自身の歩みなどについてつづった本だ。週刊誌で連載した後、客に向けた「私家版」として、今も月1回書き続ける文章をまとめた。

 「自分の学校は新宿のゴールデン街。店を出す時、1軒の中にゴールデン街を作ろうと妄想したら、思惑通り、いろんな人が来てくれるようになった」

 だが、有名人との親密さをひけらかす自慢話とは程遠い。ドアを開けて店に入ってきた客がドアを開けて出ていくように、ページを繰るたび、多彩な面々が顔を見せては去っていく。

 「寺山修司の受け売りになっちゃうけれど、酒場も劇場の延長。文化の起点となるべき、人と人との出会いの場だという普遍的な内容にしたかった」

 広島で過ごした幼少期に始まり、演劇にのめり込んだ青年期、西麻布にもバーを開いたバブル期、そして還暦を過ぎた現在。時代を自由に行き来する文章は、まるで好きなフリージャズのよう。その所々に、若い頃から変わらない社会や時代への批判精神が顔をのぞかせる。

 「昔の方がちゃんと物を言える人が(ちまた)にもプロの評論家の中にもいた。今は特定の人を除いて、いないね。時代は進化していない」

 反骨の志に共鳴する客が、今夜も店のドアを開ける。(幻戯書房、3200円)(多葉田聡)

◆次回は『オーケストラ大国アメリカ』(集英社新書)の山田真一さんの予定です。

2011年5月31日  読売新聞)

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