現在位置は です

本文です

『万里の長城』 加古里子さん

 「とんぼパン」「テレビパン」などユニークな形のパンが登場する「からすのパンやさん」、地面の下の世界を探る「地球」……。ロングセラーの数々を生んだ85歳の絵本作家が、万里の長城を題材に、中国の歴史を描く新作を発表した。

 文と地図、年表を手がけ、絵は、中国の画家・常嘉煌(じょうかこう)氏と分担。多くの民が動員された工事の様子や都のにぎわい、歴史上の人物などを伝える日中合作の絵本だ。

 紀元前3世紀、中国を統一した秦の始皇帝は、北方の遊牧民族の侵入を防ぐために長城を建設。漢の時代に長城は西へ延長され、その関所を守る部隊の力で、西域諸国を従えるようになり、「異民族同士が交流し、少しずつ共存の道が開けていった」と説く。「社会や文化のつなぎ役だった長城には、今、世界で起きている民族紛争を解決するために、学ぶべきことがたくさんある」

 子どもたちを中国史の探検にいざなう新作は、地球や生命、人類の誕生から遡って始まる。歴史と科学を合わせる手法は、大学の工学部で学び、化学会社に勤めた技術畑の著者らしい。

 「東洋史の勉強を『単なる暗記もの』と考え、深く学ばなかった」少年時代。絵本の仕事を通して、「ひな祭りをはじめ、日本には中国発祥の行事が多い。中国との関係や歴史を良く知る必要がある」と気づく。中国の百科事典や長城に関する本などをコツコツと集めては読み、何度も描き直していたら、30年がたっていた。その間、長城も訪ね、「民族の誇りが結集している」と感動、刺激を受けた。

 緑内障の手術を繰り返し、見える右目だけで描く。視野が狭く、腰痛も抱えているが、旺盛な知的好奇心は衰えない。将来を担う子どもたちへ楽しく丁寧に、人間の知恵を伝える使命感に燃え続けている。(福音館書店、1700円)(鳥居晴美)

◆次回は『天頂より少し下って』(小学館)の川上弘美さんの予定です。

2011年6月14日  読売新聞)

 ピックアップ

トップ


現在位置は です


編集者が選ぶ2011年海外ミステリー

海外ミステリーが傑作揃いだった2011年。各社担当編集者のベスト5を紹介します。

連載・企画

海外ミステリー応援隊【番外編】 2011年総括座談会
世界の長・短編大豊作…やはり新作「007」、「犯罪」不思議な味、北欧モノ健在(11月29日)

読書委員が選ぶ「震災後」の一冊

東日本大震災後の今だからこそ読みたい本20冊を被災3県の学校などに寄贈するプロジェクト

読売文学賞

読売文学賞の人びと
第62回受賞者にインタビュー

リンク