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『ガラスの動物園』 テネシー・ウィリアムズ著

暗さの中に不思議な輝き

 「幸福な家庭はみな同じに見えるが、不幸な家庭はさまざまだ」とトルストイは書いた。

 生誕100年になるアメリカの劇作家テネシー・ウィリアムズ(1911〜83年)は、その不幸を現実の出来事ではなく追憶の物語として描いた。

 舞台となる1930年代のセントルイスの裏町のアパートは、ギリシャ悲劇に出てくる宮殿のような威厳と悲壮な美しさを備えている。貧しく希望のない生活を送る母と姉、主人公の青年の3人家族は、現実から逃れようとそれぞれ夢想にふける。だが、それはガラス細工の動物のようにもろく、壊れやすい。

 彼らは、作者によれば「アメリカ社会における最大にして基本的には奴隷化されている」階層に属する。作者自身の生い立ちが投影された「ガラスの動物園」には、大恐慌後の米国を覆った閉塞感があふれている。

 にもかかわらず、登場人物たちはドラマが進むにつれ、暗い舞台照明の中でそれぞれ不思議な輝きを見せ始める。なぜなら、その姿は普遍的な人間の悲哀に満ちているからだ。小田島雄志訳。(松)

 1988年、新潮文庫(新訳)刊。28刷16万部。

2011年5月11日  読売新聞)

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