『ガラスの動物園』 テネシー・ウィリアムズ著
暗さの中に不思議な輝き
「幸福な家庭はみな同じに見えるが、不幸な家庭はさまざまだ」とトルストイは書いた。
生誕100年になるアメリカの劇作家テネシー・ウィリアムズ(1911〜83年)は、その不幸を現実の出来事ではなく追憶の物語として描いた。
舞台となる1930年代のセントルイスの裏町のアパートは、ギリシャ悲劇に出てくる宮殿のような威厳と悲壮な美しさを備えている。貧しく希望のない生活を送る母と姉、主人公の青年の3人家族は、現実から逃れようとそれぞれ夢想にふける。だが、それはガラス細工の動物のようにもろく、壊れやすい。
彼らは、作者によれば「アメリカ社会における最大にして基本的には奴隷化されている」階層に属する。作者自身の生い立ちが投影された「ガラスの動物園」には、大恐慌後の米国を覆った閉塞感があふれている。
にもかかわらず、登場人物たちはドラマが進むにつれ、暗い舞台照明の中でそれぞれ不思議な輝きを見せ始める。なぜなら、その姿は普遍的な人間の悲哀に満ちているからだ。小田島雄志訳。(松)
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1988年、新潮文庫(新訳)刊。28刷16万部。
(2011年5月11日 読売新聞)
- 『心に太陽を持て』 山本有三編著 (12月28日)
- 『O・ヘンリ短編集』 大久保康雄訳 (12月20日)
- 『現代落語論』 立川談志著 (12月14日)
- 『胡桃の中の世界』 澁澤龍彦著 (12月7日)
- 『中国列女伝 三千年の歴史のなかで』 村松暎著 (11月30日)
- 『「空気」の研究』 山本七平著 (11月23日)
- 『第一阿房列車』 内田百間著 (11月16日)
- 『真剣師 小池重明』 団鬼六著 (11月9日)
- 『女性の品格』 坂東眞理子著 (11月2日)
- 『インタビュー術!』 永江朗著 (10月26日)
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