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企画・連載
家庭面の一世紀

(18)検閲…暗い時代の到来

 「○○○○○○○○○○の。今日新聞に出ていましょう」

 1923年(大正12年)10月6日の「よみうり婦人欄」に、子どもの言葉を伏せ字にした異様な文章が掲載された=写真=。

 批評家、内田魯庵による「此頃の大杉の思い出」という連載だ。

 大杉とは、無政府主義者の大杉栄。妻の伊藤野枝、6歳のおいの橘宗一とともに、関東大震災直後の23年9月16日に殺害された。憲兵大尉甘粕正彦らの犯行とされ、世に甘粕事件と呼ばれる。軍の組織的関与があったという見方が当時から強い。

 事件は内密にされたが、9月25日、朝刊で報道される。ただし、伊藤と橘の名前は当初、伏せられていた。

 10月2日、魯庵の連載が始まる。魯庵は無政府主義者ではないが、大杉の近所に住んでいたため、交友があった。

 伊藤は、平塚らいてうの後を継いだ「青鞜」の編集長。青鞜のころのきっさきのような鋭さがだんだん丸くなったのだろうと、魯庵は書く。連載では、四女のルイズが食べこぼすお菓子のくずを拾うお母さんとして描かれている。

 大杉も、長女の魔子を連れ、ルイズを乳母車に乗せて散歩している。「イイお父さんになったネ」と魯庵に言われ、夫婦で顔を見合わせて笑う。

 そんな日常の描写の後だけに、伏せ字の異様さが胸をつく。「物の弁えも十分で無い七歳の子」である魔子の言葉なのだから。

 現在、岩波文庫に入っている魯庵の「思い出す人々」を見れば、伏せ字の後半は「パパもママも殺されちゃったの」。前半はわからない。

 婦人欄で、暗い時代のはじまりが告げられた。

 大杉の友人で、読売新聞の婦人欄担当の記者だった安成二郎が戦後の73年に発表した「無政府地獄」には、「甘粕事件に関する記事で公安を害する場合は行政処分」という警視庁検閲係の警告文が掲載されている。安成の無念の思いが伝わってくる。

 (敬称略)

2009年5月29日  読売新聞)

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