『クートラスの思い出』 岸真理子・モリアさん
孤高の画家との恋
ロベール・クートラス(1930〜85)は、生活を犠牲にして表現の自由に魂をささげた、フランスの知られざる孤高の画家だ。その晩年の一時期を共に暮らした著者が、画家の思いと波乱の人生を初めて伝記にまとめた。
「彼の優しい言葉や声は亡くなってからもずっと耳に残り、書きとめていた。人に見せる勇気もなかったけど、彼を直接知る人物はもう私だけだからと周囲に書くよう勧められました」
パリの貧しい家庭に生まれ、少年期は仏国内を転々としたクートラス。石工を経て夢だった絵描きになるが、注文の多い画商と衝突する。自由な創作の裏で空腹を抱え、数々の恋愛と挫折に満ちた日々は、もの悲しくも充実感に満ちている。
終盤は、著者である「私」が画家との出会いと死別を回顧する。それはまるで20世紀初頭に創造的環境を求め、流浪の貧乏暮らしに身をおいたモンパルナスの画家と恋人の残影にも似た、甘く切ない恋物語だ。
東京都出身。仏語の話せる社員を募集していた都内の画廊に就職した。クートラスとの出会いは、パリ支店に赴任した1977年の夏だった。「当時私は28歳で、彼は47歳。目がきれいで、子どもみたいに純粋な印象だった。ただ、私は彼にアトリエを貸す大家でもあり、恋人との意識はありませんでした」
「カルト」と呼ばれる名刺大の絵画や未発表のデッサンを始め、パリのアトリエなどのカラー写真、文中に登場する地名を網羅した地図なども掲載。読者の想像を手助けする。
画家の遺言で一部作品の保管者となり、現在は、仏人ピアニストの夫とパリ郊外で暮らす。「1人でも多くの人にクートラスのことを知ってもらえれば」と、話している。(リトルモア、1600円)(井上晋治)
◆次回は『ウルトラマンの墓参り』(飛鳥新社)の竹内義和さんです
(2011年12月6日 読売新聞)
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