絵本と光 降りそそぐ
高さ9メートルの大書架に絵本が並ぶ。館内に所蔵されている絵本は1万3000冊。うち、1500冊が大書架に展示されている。高くて手が届かない本は下の本棚にもあり、子どもたちはそれを手に取る |
青から紫、赤、黄。1500冊の絵本の表紙が上から流れるように並ぶ。巨大なモザイク壁画のよう。三角形の天窓からやわらかな光が差し込む。目線をそらすと、ガラスの向こうに見えてくるのは青い空と太平洋の水平線――。
海を望む高台に建てられた絵本美術館「まどのそとのそのまたむこう」。福島県いわき市内で三つの幼稚園を経営していた巻レイさんが長年の夢を実現、幼稚園付属の絵本美術館として2005年5月に開館した。
設計は安藤忠雄氏。「世界的な建築家が相手にしてくれるわけない」という周囲の反対をよそに、レイさんは思いをしたためた手紙を速達で送った。3日後、安藤さん本人から電話があった。
まだ字を読めない小さな子どもが絵本に興味を持てるように、表紙が見える展示にしたい、とだけ安藤さんに伝えると、吹き抜け部に高さ9メートルの大書架ができあがった。
建設中にヘルメット姿で見た、コンクリートの向こうの真っ青な海。このとき思い浮かんだ米国の絵本作家、モーリス・センダックの絵本の題名を美術館の名前にした。
レイさんは昨年5月、78歳で亡くなり、現在は長女の美佳砂さん(49)が後を継いでいる。
三つの幼稚園の園児たちは月に1、2度、お昼のお弁当を手に、バスに乗ってやってくる。仲のいい友達と階段に座り、一緒に絵本を読んだり、海を見たり。
幼稚園内に併設されている図書室も利用して、3年間で読む絵本は1人平均約600冊にものぼる。読書の記録は、冊子「絵本のかるて」として卒園時に手渡される。「卒園アルバムよりうれしい、と保護者から言われることもあります」と美佳砂さん。
子どもたちには豊かな想像力を持って生きていってほしい、というレイさんの思いが、絵本と美術館を通して引き継がれていく。
写真と文 清水健司
19世紀後半に出版された「マザー・グース」の初版本。本棚の一角には、欧米の原書のコーナーもある。レイさんは海外に出かけるたびに古書店などをめぐり、貴重な絵本を集めた |
ガラス張りの吹き抜けの向こうには青い空と太平洋が広がっている
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ルイス・キャロル作の「鏡の国のアリス」の原書 |
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1500冊の絵本が並ぶ様子は圧巻 |
子どもたちは思い思いの場所で本を読む |
吹き抜けの向こうに太平洋が広げる |
吹き抜けの向こうは青空と太平洋 |
海を望む高台に建つ絵本美術館 |
安藤忠雄氏設計の絵本美術館 |
コンクリートの向こうに本棚が並ぶ |
園児たちはバスでやってくる |
(2010年10月25日 読売新聞)