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nadeshiko 英語になるかもしれない日本語


 「なでしこジャパン」が世界を驚かせたサッカー女子ワールドカップ。この大会のバズワード(はやり言葉)を一つ選ぶとしたら、やはりnadeshikoでしょう。

 海外のメディアはnadeshikoという日本チームの愛称をどう扱っていたのでしょうか。

 最初のうちは「nadeshikoって一体何だ」と、あまり関心も持たなかったようです。しかし、日本代表が勝ち進むにつれて、この言葉を見出しに取る記事が増えてきました。

 例えば、フランスのAFP通信は、アメリカとの決勝戦を前にした記事の見出しを次のように付けました。

 Japan's Nadeshiko ready to topple giants USA

 日本のなでしこ、巨人アメリカを倒す意気込み(フランスのAFP通信)

 優勝が決まった後の記事でも、nadeshikoは日本代表の代名詞として使われていました。見出しに用いたメディアもいくつかありました。

 Nadeshiko victory completes Japanese fairytale

 なでしこの勝利で日本のおとぎ話が現実に(タイのバンコクポスト紙)

 Japan savors its "Nadeshiko" World Cup heroes

 日本、ワールドカップの英雄なでしこたちの勝利をかみしめる(アメリカのCNN)

 (savorは「〈味や香りを〉味わう、満喫する」「〈勝利を〉享受する」という意味です)

 英語圏の世界でも、日本の文化や伝統に詳しい人や関心のある人は、yamato nadeshiko(大和撫子)という言葉を以前から知っていたかもしれません。大和撫子とは「日本女性の清楚な美しさをたたえていう語」(大辞林)です。

 しかし、海外の多くの人にとってnadeshikoは聞いたこともない言葉でしょう。海外のメディアはそんな読者のために記事の中でnadeshikoの意味を説明しています。次に示すように、その多くは大和撫子のイメージを反映したものになっています。

 「理想的な日本女性を示すノスタルジックな言葉」(アメリカのCNN)

 「理想的な日本女性の美と気品を象徴するナデシコ科の花」(バングラデシュの国営通信)

 今回の「なでしこジャパン」の快挙で、nadeshikoという言葉は世界のずっと多くの人たちに知られるようになったと思います。それと同時に、この言葉に込められた意味も変わり、清楚さや気品といった旧来のイメージに、力強さやねばり強さ、明るさなどの要素が付け加わっていくかもしれません。

 前回のこの欄で「フランス語になった日本語」としてmatcha(抹茶)を紹介しました。matchaはフランスの出版社ロベールが今年、辞書に採用した言葉の一つだったのですが、同時に選ばれた新語の中には、vuvuzela(ブブゼラ)もありました。皆さんも覚えているかもしれませんが、vuvuzelaは南アフリカで開かれた2010年の男子サッカーワールドカップで応援用に使われたラッパです。競技場でにぎやかに鳴り響く音は世界中で話題になりました。vuvuzelaは南アフリカ大会のバズワードだったと言えるでしょう。

 一方、nadeshikoは今回の大会のバズワードです。「なでしこジャパン」の活躍がこれからも続けば、「女子サッカーの日本代表チームの別称」「清楚さと力強さ、不屈の精神を併せ持つ日本人女性」など新しい意味を持ったnadeshikoが「英語になった日本語」あるいは「フランス語になった日本語」に仲間入りするかもしれません。

筆者プロフィル

大塚 隆一
1954年生まれ。長野県出身。1981年に読売新聞社に入社し、浦和支局、科学部、ジュネーブ支局、ニューヨーク支局長、アメリカ総局長、国際部長などを経て2009年から編集委員。国際関係や科学技術、IT、環境、核問題などを担当
2011年7月19日  読売新聞)

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