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5年後には中国が世界一のお金持ち?

研究員の顔ぶれ

調査研究本部主任研究員 笹島 雅彦

 今年は、中国共産党創設90周年、清朝を倒した辛亥革命から100周年という節目の年に当たることから、長い目で見た中国の将来像について論じる会合が多い。

 最近、中国・上海市の復旦大学国際問題研究院常務副院長、沈丁立氏の話を聞く機会が都内であった。政治都市・北京に比べ、商業都市・上海の知識人は、中央政府から地理的に離れている分、比較的、ざっくばらんに話をする人が多く、外国人のウケも悪くない。沈氏も日本側の期待に背かず、中国の台頭について、理路整然と説明した。

 「中国の台頭は発展への機会であり、いずれ政治改革も必要になってくる」「2010年に中国の国内総生産(GDP)が日本を抜いて世界第2位になったと言っても、1人当たりのGDPはまだ日本の10分の1程度。貧困層が多く、持続的発展のためには国際情勢の平和的環境を必要としている」と述べた。

 昨年秋の尖閣諸島沖における中国漁船衝突事件以来、さらに悪化してきた日中関係が念頭にあるためか、控えめで謙虚な表現が多いうえ、「日中の共同作業や互譲の精神で問題の解決を目指そう」と、持ちかけてくる。しかし、尖閣諸島問題で突っ込んだ質問を受けると、「清の時代から釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国の領土だ」という原則論に戻ってしまった。もっとも、中国の公式的立場は「いにしえの時代から中国領土であり、明の時代の文献にも記載がある」(人民日報)という主張だ。沈氏が清を持ち出したのは、尖閣諸島が日清戦争中の1895年1月に日本領へ編入された点を批判しようとしたのだろう。気まずい空気が会場を覆った。

 沈氏は中国の経済力について控えめに語った。しかし、現在、中国の経済力は名目GDPで世界第2位。もはや途上国ではない。昨年来の居丈高な中国政府高官の姿勢をみていると、中国国家の未来像はどうなっているのか、中国が米国の一極支配を打倒し、多極化世界を作るというとき、中国はどのような世界秩序を考えているのか、国際規範を守り、責任ある大国としての振る舞いはできないのか。疑問ばかりがわいてくる。中国国内では、「人民解放軍や太子党など既得権益集団の自己主張が強まり、来年からの権力移行期を前に、党内抗争が激化しているのではないか」と、国分良成・慶大教授は分析する。中国が一人当たりGDPの低さを強調するのも、大国としての責任を逃れるための言い訳にも聞こえる。

 国際通貨基金(IMF)が4月に公表した世界経済見通しによると、各国の物価水準を考慮に入れた購買力平価ベースで、中国のGDPは2016年、約19兆ドルに達し、米国の18兆8000億ドルを上回り、世界一になるという。ちなみに、その年の日本のGDPは5兆1455億ドルの予想で、中国の4分の1強にすぎない。購買力平価ベースでは、中国の人民元のように通貨が過小評価されている場合、名目GDPよりも大きな数字となってあらわれるから、実際に中国が名目GDPで米国を抜くのはさらに先になるだろう。

 かつて、米投資銀行ゴールドマン・サックスは「BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)報告」(2003年)で、中国が米国を追い越すのは2041年と予想した。2009年報告では2027年とさらに前倒しした。一方、英誌「エコノミスト」(2010年12月16日号)は、2019年というご託宣だ。

 もちろん、条件設定の仕方で、こうした予想値は大きく変わる。むしろ、国際社会にとっての懸念は、中国が共産党による一党独裁国家のまま、世界一の経済大国の座に就くのか、という点にある。そのとき、中国は経済力をパワー基盤として、どのように他国への影響力を行使するのだろうか。

2011年7月28日  読売新聞)

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