japanification(続) 欧米がうらやむ?「日本化」
「日本化」をめぐる議論が欧米メディアで続いています。
長いデフレで経済が活力を失い、政治家は痛みの伴う決断を先送りして、問題を深刻にしている−−そんな状況を「日本化」と呼んでいるのですが、欧米諸国ではこのままだと同じ道をたどりかねない、という不安が一段と高まっているようです。
前々回のこの欄で紹介した通り、「日本化」を示す英語は 〈japanification〉〈japanization〉〈turning japanese〉 など様々ですが、欧米メディアにはその後も連日のようにこれらの言葉が登場しています。
例えば、9月7日付の英紙フィナンシャル・タイムズは次のように伝えています。
Turning Japanese? US and German bond yields test new lows.
日本化は進むのか? 米独の国債利回りが(日本並みの)かつてない低水準に
The worries about a Japanization of western markets remain acute.
欧米の市場が日本化する懸念は依然として強い
米誌タイム(電子版)も8月下旬、「日本化」の問題を取り上げ、日本は過去の成功にとらわれ、今日できることを明日に延ばしてきたため、長いデフレに陥ったと指摘しました。
このように大半の報道は「日本化」を否定的にとらえているのですが、興味深かったのは、タイム誌の記事に対する読者の反応です。
ある読者は、こんなコメントを寄せました。
「アメリカのメディアは日本の衰退を書き立てているが、日本の失業率はまだ低い。インフラもしっかりしている。政府の債務が莫大といっても、大半は日本の国民から借りたもの。外国に多額の借金をしているアメリカとは違う」
大阪で働いているというアメリカ人の読者は次のように指摘しています。
「私の経験から言わせてもらえば、確かに給料はそれほど高くないが、貯金はできている。アパートは狭いが、快適で近代的だし、街も安全だ。日本は経済的にどうしようもない国といった論調ばかりだが、これほどの生活の質を実現している国はあるだろうか」
数は少ないのですが、同様の視点の記事もあります。
米ブルームバーグ通信は8月下旬、こんな見出しの記事を配信しました。
"Japanization" isn't always as bad as it seems
「日本化」は思われているほど悪いものとは限らない
記事の中では、こんな記述が続きます。
「欧米諸国は、たとえ日本のようになりたいと思ってもなれないだろう」
「日本の不況は恒常化したが、犯罪もホームレスも増えていない。ロンドンのように暴動も起きない。大震災後も日本はどうにかこうにかやっている」
確かに欧米が抱える問題はある意味で日本より複雑で厄介です。特にギリシャなどの債務危機に揺れるユーロ圏諸国の現状は極めて深刻と言えるでしょう。
良くも悪くも欧米に比べて「閉じた国」である日本の場合、政治家の決断と国民の覚悟があれば、財政危機のかなりの部分は国内問題として処理することができます。
しかし、統合への道を歩んできた欧州の場合、そう簡単にはいきません。ユーロ圏は経済の規模や豊かさ、国家の成り立ちや国民の気質が異なる諸国の集合体です。さらに多数の移民の存在が問題を複雑にしています。財政危機は一国だけで乗り切れる問題ではなくなっています。
ドイツの国民の間では、なぜ自分たちの税金で放漫財政のギリシャを救う必要があるのか、という声がくすぶっています。
こうした世論を意識してのことなのでしょう。ドイツのレスラー経済技術相は11日、 「ユーロの安定のためにタブーはない」と述べ、ギリシャをユーロ圏から切り離す可能性を示唆して物議を醸しました。
統合への道を歩んできた欧州は、かつてない危機にひんしているのです。
国の借金が国内総生産(GDP)の2倍にも達する日本の状況は確かに深刻ですが、欧州のこうした苦境に比べれば、まだ対処の仕様はあると言えるのかもしれません。
ただ、日本の経済や財政の事情について、最悪の見本ととらえる人も、欧米よりはマシと見る人も一致している点があります。それは政治の迷走に対する手厳しい評価です。
野田首相はこうした世界の目をよく分かっているようです。13日に行った所信表明演説では「日本化」の問題に触れ、以下のように述べました。
〈大震災後も世界は歩みを止めていません。そして、日本への視線も日に日に厳しく変化しています。日本人の気高い精神を称賛する声は、この国の「政治」に向けられる厳しい見方にかき消されつつあります。「政治が指導力を発揮せず、物事を先送りする」ことを「日本化する」と表現して、やゆする海外の論調があります。これまで積み上げてきた「国家の信用」が今、危機にひんしています〉
正しい現状認識だと思います。首相は続いてこう述べました。
〈私たちは、厳しい現実を受け止めなければなりません。そして、克服しなければなりません。目の前の危機を乗り越え、国民の生活を守り、希望と誇りある日本を再生するために、今こそ、行政府も、立法府も、それぞれの役割を果たすべき時です〉
この決意が言葉だけに終わらないことを願うばかりです。
筆者プロフィル | |
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大塚 隆一
1954年生まれ。長野県出身。1981年に読売新聞社に入社し、浦和支局、科学部、ジュネーブ支局、ニューヨーク支局長、アメリカ総局長、国際部長などを経て2009年から編集委員。国際関係や科学技術、IT、環境、核問題などを担当
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