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mercantilism 新しい重商主義の時代

APEC首脳会議が開かれた米ハワイ州で、日米首脳会談に臨む野田首相(左)とオバマ米大統領(2011年11月12日撮影)

 英語のメディアで近年、しばしば目にする言葉に mercantilism (マーカンティリズム)があります。

 意味は「重商主義」です。高校の世界史の教科書にも載っている言葉ですから、懐かしいと感じられる人もいるでしょう。

 重商主義は16世紀から18世紀のヨーロッパ、特にイギリス、フランス、オランダなどで支配的だった経済思想や経済政策です。

 辞書を見てみると、次のように説明しています。

 「自国の輸出産業を保護育成し、貿易差額によって資本を蓄積して国富を増大させようとするもの」(大辞泉)

 この言葉はその後の時代も保護貿易的な国に使われてきました。

 例えば、第2次世界大戦後の日本がそうでした。米紙ワシントン・ポストは日本のTPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加を論じた11月12日付の社説で、こう述べています。

 Under the postwar U.S. security umbrella, Japan tried a different track: mercantilism.

 日本は戦後、アメリカの安全保障の傘の下で、(自由貿易とは)異なる道、すなわち重商主義の道を歩もうとしてきた。

 イギリスの経済誌マネーウイークの電子版も11月9日付の記事でこんな指摘をしています。

 Japan's extraordinary economic success pre-1990 was based on export-led mercantilism.

  1990年以前の日本経済のめざましい成功は輸出主導の重商主義に基づくものだった。

 近年は中国など新興国の経済・貿易政策を批判する際に使われるケースが目立っています。

 例えば、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは11月4日付の記事でこう書いています。

 Traditional economic powers such as the United States and Europe are justifiably concerned about growing mercantilism in major emerging countries.

  アメリカやヨーロッパなどの伝統的な経済大国は、(中国など)主要新興国が重商主義の傾向を強めていることに正当な懸念を示している。

 これらのケースでは、重商主義という言葉は様々な形の保護主義的な政策を、欧米先進国が批判する形で使われています。

 その背景には、自由貿易を掲げてきたアメリカやヨーロッパ諸国が経済危機に見舞われているのに、中国をはじめとする新興諸国は保護主義的な政策を取り続けて成長を続けていることへのいらだちがあります。

 一方で、欧米の先進諸国も企業の活動を積極支援し、輸出拡大を図ろうと躍起になっています。大統領や首相がトップセールスマンとして海外を回るのは今や当たり前の光景になりました。

 こうした動きは古典的な意味の重商主義とは違うのですが、「新しい重商主義」と呼ぶ専門家もいます。

 イギリスの経済学者アダム・スミスが著した「国富論」(1776年)は重商主義批判の書でもありました。それ以来、重商主義と自由貿易主義の論争は様々に形を変えながらも繰り返されてきました。

 欧米諸国は今も自由貿易体制の維持・拡大を掲げています。しかし、新興国の急速な追い上げの中、企業に自由に競争させておけばよい、という余裕がなくなってきたことだけは確かです。

筆者プロフィル

大塚 隆一
1954年生まれ。長野県出身。1981年に読売新聞社に入社し、浦和支局、科学部、ジュネーブ支局、ニューヨーク支局長、アメリカ総局長、国際部長などを経て2009年から編集委員。国際関係や科学技術、IT、環境、核問題などを担当
2011年11月25日  読売新聞)

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