occupy アメリカの流行語大賞
世相を映した言葉に贈られる日本の「新語・流行語大賞」。2011年の年間大賞は「なでしこジャパン」でしたが、その米国版とも言えるのはアメリカ英語学会(American Dialect Society)が選ぶ「今年の言葉」(Word of the Year)でしょう。
日本の「新語・流行語大賞」は出版社が主催し、6人の審査委員会が選定します。一方、アメリカの「今年の言葉」は言語学者や文法学者、歴史学者や作家など様々な分野の専門家が投票で決める、より本格的で権威ある賞です。
2011年の「今年の言葉」を決める投票は200人以上の専門家が参加して1月上旬に行われました。その結果、圧倒的な得票で選ばれたのは occupy (オキュパイ)でした。
occupy は「占める」「占拠する」などを意味するありふれた言葉です。そんな単語が「今年の言葉」に選ばれたのは、ニューヨークの金融街で格差是正を求めて繰り広げられた Occupy the Wall Street (ウォール街を占拠せよ)運動のためです。
昨年9月に始まったこの運動は全米、そして世界に広がり、各地で「○○を占拠せよ」を合言葉に同様のデモや集会が行われました。
「今年の言葉」の投票の進行役を務めたベン・ジマー氏は occupy に支持が集中した理由を次のように分析しています。
「occupy はとても古い言葉だが、全米そして世界へ広がった運動のおかげで、わずか数か月の間に新しい命を吹き込まれ、予想もできなかった方向に動き始めた。そして運動そのものが occupy という言葉によって力を与えられた」
アメリカはもともと超格差社会です。貧富の差は日本とは比べものになりません。それでも格差を問題にする大規模な運動はほとんどありませんでした。
それだけにウォール街占拠デモは歴史的な事件でした。デモの合言葉に使われ、運動を広める役割も果たした occupy が「今年の言葉」に選ばれるのは当然だったと言えるでしょう。
決選投票は五つの言葉で争われましたが、3位に入ったのもアメリカで広がる格差を象徴する言葉でした。ウォール街占拠運動でも使われた「the 99%」「99 percenters」です。
直訳すれば「99%を占める人々」です。アメリカでは最も裕福な1%の人々の所得が国民所得全体の約4分の1を占めるようになりました。残りの99%の人々は経済的にも政治的にも不利な立場に置かれています。「the 99%」「99 percenters」はこうした人々を指す言葉です。
ところで「今年の言葉」はイギリスの Oxford English Dictionary (オックスフォード英語辞書)の編集者たちも毎年選んでいます。2011年は squeezed middle (スクウィーズド・ミドル)でした。
squeeze は「しぼる」「押しつぶす」「圧迫する」、middle は「中間層」「中流階級」を示しますから、squeezed middle は「搾り取られる中間層」ほどの意味です。
この表現はイギリスの労働党の党首エド・ミリバンド氏がラジオ番組で使い、広まったものです。背景にはやはり、中間層の人々が抱く格差拡大への不満や景気・雇用への不安があるのでしょう。
米英両国で選ばれた「今年の言葉」は先行きの見えない経済状況を象徴しています。
筆者プロフィル | |
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大塚 隆一
1954年生まれ。長野県出身。1981年に読売新聞社に入社し、浦和支局、科学部、ジュネーブ支局、ニューヨーク支局長、アメリカ総局長、国際部長などを経て2009年から編集委員。国際関係や科学技術、IT、環境、核問題などを担当
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