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高い物価に含まれるスイスの「安全代」

ジュネーブ支局 佐藤昌宏

スイス・ジュネーブ市街(2009年1月撮影)

 スイス・ジュネーブで、手頃な値段の昼食を探すのは困難といっていい。

 マクドナルドでビッグマックのセットを頼むと、11・5スイス・フラン(約958円)。街の食堂といった雰囲気のレストランでも、日本円で最低1500円は覚悟しなければならない。

 周辺国では、マクドナルドでもレストランでも、ほぼ同じものが半額から3分の2程度で食べられることを考えると、文句の一つも言いたくなるが、ジュネーブの地元の人たちは、素知らぬ顔で会計を済ませる。

 食料品や日用品の価格も総じて高い。スーパーでさえ定価販売が普通だ。全く同じ商品が、ジュネーブ中心部から車で15分ほどのフランス領内のスーパーで、2割程度安く売られていることもざらにある。

 価格差があるのは、もちろん周知の事実。それでも多くの人は、ジュネーブのスーパーへ買い物に行く。保険会社社員クレメント・フォンアレックスさん(28)は「地元で買えば、国や(ジュネーブ)州への貢献になる」と語る。銀行員エバ・ベットナーさん(27)は「物価が高いのは、生活水準の高さに比例しているから。事件も少ないし、とても安全。他国との差額は、快適な生活を維持するための税金みたいなものよ」と強調する。

 実際、生活の質や安全度の調査で、ジュネーブやスイス最大都市チューリヒは例年、欧州地域で上位に位置する。ジュネーブの昨年の安全度は、ウィーンに次いで6位だ。

 ところが、ジュネーブの治安に関して言えば、ここ半年ほど、世界に誇れるほど安全ではなくなってきている。殺人事件といった凶悪事件こそ少ないものの、中心部でのひったくりや麻薬の売買、空き巣や車上狙いが急増しているのだ。

 犯罪急増後も、街中をパトロールする警察官を見かけことはほとんどない。地元の新聞などは、警察官の不足や警察の捜査力の欠如を盛んに批判している。空き巣事件が起きても、警察は、被害者が保険会社に提出する書類の記入に協力するだけで、捜査をする気などまるでない、という。

 知人の男性(28)の助言を受け、出張などで家を1日以上空ける際は、貴重品を台所の一角に隠してから出掛けるようになった。自分も当初、「高い物価には『安全』、『快適さ』代が含まれている」と納得しようと思ったが、最近は、物価高への不満がますます強くなっている。

2012年1月30日  読売新聞)

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