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「デカいことを考えているヤツら」をベンチャーに引き込む

 すでにブログ等でも公表させていただいていますが、私、2012年1月より、株式会社インターリンク、同社社長横山正氏といっしょに、「Femto Startup LLP」(有限責任事業組合フェムト・スタートアップ)という、ベンチャーをサポートする組織をはじめました。

「femto」とは

 LLPの名前に付けたfemto(フェムト)というのは、国際単位系で「10のマイナス15乗(1000兆分の1)」を意味する言葉です。つまり「非常に小さい」という意味ですね。ファンド総額も5000万円と、通常のベンチャーキャピタルよりはるかに小さいですし、投資対象も設立前後の小さなスタートアップが中心となります。一方で、「フェムト」は、「フェムトレーザー」「フェムト秒化学」といった最先端の科学領域で使われている言葉でもあります。「マイクロ」ソフトが小さいどころか超巨大企業であるのと同様、このFemto Startupも、そうしたデカいことを考えて成長する意思があるベンチャーや起業家をサポートしていきたいと考えています。

投資とサポート内容

 このLLPでは、私がその会社の初期のCFO的な役割を担って、1社1社丁寧に支援して、ビジネスモデルや資本政策を創業者といっしょに考え、次のベンチャーキャピタルなどからのまとまった金額の資金調達までつなげる第1弾ロケットのような役割を果たしたいと考えています。

 同時にサポートできるのは、せいぜい2社か3社が限界だと思いますので、サポートさせていただくのは、(申し訳ないですが)せいぜい年間数社になると思います。

 そして同時に、ベンチャー1社あたり200万から300万円を投資して、平均して全体の5%程度の株式を取得することを考えています。つまり現在の出資金を十数社にも投資することになりますので、5000万円はこれでも多いくらいなわけです。つまり、「投資ファンド」とか「ベンチャーキャピタル」というよりは、どちらかというと「少なくとも当面はフィーがいらず、出資もついてくるコンサルティング」といった感じのことを考えています。昨年から「インキュベーター」という言葉の意味の風向きが変わった気がしますので(というのは冗談ですが)、「インキュベーター」とも名乗らないことにしました。インキュベーター各社が行っている「半年ごとに、まとめて数社を選抜する」「オフィスを貸す」「研修が付いて来る」「数ヶ月先に『demo day』といったプレゼンの場がある」といったことは、今のところ行う予定がないです。(つまり、効率はあまりよくなさそうですが、投資家や専門家の紹介は1社1社個別対応することになります。)

 インターネットのスタートアップにかかるコストは、いわゆる「ムーアの法則」的に、10年前と比べて桁違いに小さくなっていますので、こういう新しい試みができるんじゃないかと思った次第です。

CFO的役割は必要とされているのではないか

 なぜ、こうしたことをやろうかと考えたか、ですが。

 一つには、日本のスタートアップ時のベンチャーは、「ファイナンスだけはよくわからない」という人が非常に多いなあと思うからです。

 Y CombinatorのPaul Graham氏が書いていることにも関連しますが、そのビジネスモデルの根幹のこと(技術やサービスなど)について、外部から手取り足取りアドバイスを受けないとわからない人が成功しているのは、あまり見たことがありません。しかし、少なくとも日本では、初期のファイナンスで失敗して「あの時、ああしておけば…」と後悔している人は山ほど見かけます。

 日本のビジネスの技術やノウハウなどの「実体面」は、決して何年も海外に後れを取っていることはないと思います。しかし、ベンチャーの「ファイナンス面」については、残念ながら、シリコンバレーなどに比べて15年から20年遅れているんじゃないかと思います。(つまり、今どき「タイムマシン経営」なんてことを言う人は少ないと思いますが、ファイナンスに関しては未だにかなり「タイムマシン」が使えると思います。)

 このため、起業家に、ファイナンス面からの支援をしていくしくみがあると、ベンチャーが健やかに成長するお役に立てるんじゃないかと考えたわけです。

ベンチャーをどう応援するか?

 しかし、スタートアップへのアドバイスは、「ビジネス」としては非常に難しいんですね。ベンチャーを応援するのは非常にワクワクして楽しいので、協力したいという専門家も多いのですが、ちゃんとしたフィーを支払おう(支払える)というスタートアップは日本ではまだほとんどいません。シリコンバレーでは最初から弁護士などの専門家に相談するのが当然になっていますが、日本では、初期にはそうした専門家のアドバイスの必要性を感じずに相談もせず、後から後悔するというパターンが非常に多いわけです。(もったいない!)

 ならば、「ベンチャー側がフィーを支払うのではなく、逆に資金も付けてアドバイスも提供しますよ」ということにしたら、ベンチャーとしても、かなり使いやすいんじゃないかと思った次第です。しかし、ベンチャーは、新しいニーズや技術を探索する「市場メカニズム」そのもの、資本主義そのものの活動です。市場メカニズムが「ビジネスベース」で回らないというのはおかしいし、ビジネスベースでないとベンチャーを取り巻く「生態系」の成長のためにもならないと思うので、これは「寄付」や「ボランティア」ではなく、あくまで回収の見込みがあると判断した事業(人)に対する「投資」であり「ビジネス」として考えています。

「相場」の形成

 もう一つ、日本に投資の「相場」や「ひな型」を形成したいとも思っています。
シリコンバレーでは、Y Combinatorや500 startups をはじめとして、だいたい2万ドル前後で6%前後といった相場ができているようですが、日本の初期のベンチャーに投資するエンジェルやインキュベーターの中には、数百万円で30%(多い時には半分近く)の持ち分を取ってしまうところもあります。

 日本の場合、上場時に経営陣が安定的な株式を持っていることが望ましいとされる度合いが米国より強いと思いますので、最初からたった数百万円で何割もの株式を外部の人に渡してしまったら、その後の資本政策は米国以上にガタガタになってしまいます。キツい言い方をすれば、大きく成長しようとしているベンチャーの芽が、そこで摘まれてしまうことになりかねないわけですね。

 有望なベンチャーが健やかに成長するためには、日本にも、そうした初期の「相場」が必要だと思いますので、Femto Startupでは当面、200万から300万円で全体の5%程度の株式を取得するという線を押していきたいと考えています。

 また、ベンチャーファイナンスというのは、非常に多岐にわたる選択肢がありますので、毎回毎回それらの選択肢を検討すると、すごいコストがかかってしまいます。しかし、こなれた「ひな型」が存在すれば、ベンチャーが支払うコストを下げ、立ち上げのスピードも上げることになります。そこまで余力があるかどうか、やってみないとわかりませんが、投資スキームや契約書ひな型などを可能な限り公表して、日本の創業期の健全なビジネス慣行が形成されるお役に立てればなあ、とも考えています。

応援したいベンチャー

 「ベンチャー」を「中小企業」のことだと思っている人がいますが、狭義のベンチャーはイノベーションを起こす企業のことであって、両者は根本から違います。利益が出て社長がちょっといい暮らしをしていたり、従業員も増えて子供がいい学校に入って住宅ローンがある人ばかりになったりしたら、なかなか「失敗したら会社がつぶれるかも」というようなイノベーションにはチャレンジしにくくなります。そういう会社を何社上場させても、社会が変わっていくわけはありませんよね。日本の様々な問題点を解決するために重要なのは、「最初からデカいことを考えてるヤツら」をいかにベンチャーの世界に引き込み、そして成功させるか、なんじゃないかと思います。もちろん、利益が出ていい暮らしをすることは立派なことですが、社会を大きく変えて行くのは、そうしたドデカいことを考える人達のはず。Femto Startupでは、そういう人を応援したいと考えています。

 (ではまた。)

 Femto Startup LLPホームページ:http://femto.st/

磯崎哲也(いそざき・てつや)
 Femto Startup LLP ゼネラルパートナー/公認会計士。カブドットコム証券株式会社 社外取締役、株式会社ミクシィ 社外監査役、中央大学法科大学院 兼任講師等を歴任。著書「起業のファイナンス」、ブログ及びメルマガ「isologue( http://tez.com/blog/ )」を執筆している。


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2012年1月25日  読売新聞)

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