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ハーバードより狭き門「起業家養成学校」

インキュベータの歴史

メジャーなインキュベータの500 Startupsでの講演

 インキュベータを直訳すると「孵化(ふか)器」。ベンチャーを促成栽培する仕掛け、です。

 元はと言えば、ドットコム・バブルだった90年代後半に、インターネット系のベンチャーを生み出すために雨後のタケノコのように登場したのがきっかけです。当時の南カリフォルニアにあるIdealabが有名ですが、このIdealab、なんと10億ドルもの資金調達を2000年にしたこともありました。

 昨今のインキュベータは、インターネット系起業にお金がかからなくなったことを背景に、当時よりはかなり軽やかな資金で運営されています。

 そもそもインキュベータには、自らのアイデアを基にそれを事業化するものと、アイデアを持った人に投資して、その事業育成をサポートするケースがありましたが、最近では前者はほとんど姿を消しました。一部、医療機器の世界で「自己アイデア型」が細々と続いていますが、インターネット系では他社投資が一般的。

 それも、大量のベンチャーに投資、短期間集中でインキュベーションを行う形式が多くなりました。年間数回、ビジネスプランを募集し、その中から数十社を選んで1か所に集め、3ヶ月くらいの間、起業に関係ある様々なレクチャーを行ったり、いろいろなゲストスピーカーを招いて勉強会をしたりします。そして、期間終了時に、デモ・デイと称して、投資家を招いた発表会を行う、というのがよくある流れです。受験→授業→卒業、という学校形式ですね。

 このやり方の先鞭(せんべん)をつけたのがシリコンバレーにあるY Combinatorと、コロラド州ボールダーをベースにしたTechStars。それぞれ2005年、2006年に始まりました。

 その後、数多くのインキュベータが登場していますが、多くがこの「学校形式」を踏襲しています。

Y Combinatorの実績

 さて、では、こうしたインキュベータからどれくらいのベンチャーが誕生し、どの程度うまくいっているのでしょうか?

 Jed Chritiansenという人が丁寧にまとめてくれた、「Y Combinator卒業ベンチャーリスト」がGoogle Docsにあります。(Startup accelerators Jed Christiansenと検索するとこのDocsにリンクしたブログが出てくるはずです)。こちらのデータをまとめると、グラフのような感じになります。ブルーが清算されてなくなってしまった会社、グリーンは買収された会社、オレンジは現在でも存続している会社です。なお、「買収」は額にもよりますが、多くの場合「成功」を意味します。


 2005年はプログラムは1回だけで、2006年以降は年2回あるのですが、右肩上がりに社数は伸びています。ちなみに2005年は8社しか卒業ベンチャーがないのですが、その中に、1500万ドルで買収されたReddit社や、今でも続いているLooptもあり、出だしからいい感じではあります。その後2008年には、Salesforce.comに2億ドル超で買収されたHerokuもあります。トータルで見ると、7年間で316社が卒業し、うち43社が清算、32社が買収されています。買収される確率10%ですね。もちろん、買収された中には事業がうまく行かず安値で買われたところも多いとは思いますが、それにしても結構良い感じです。

 TechStarsも、卒業したベンチャーの70%が次の増資に成功したとされ、Y Combinatorより実績としては良いとも言われてきました。(最近、ロシアの大富豪がY Combinator卒業ベンチャーに一律10万ドル投資することになったので、Y Combinatorを卒業したベンチャーが次の増資に成功する確率は100%になっているのですが)。

 インキュベータの投資は、だいたい100万〜500万円くらいの少額投資で、5〜10%くらいの株式を手に入れるケースが多いです。5〜10%というのはかなりの比率で、それだけあげれば素敵な共同設立者に来てもらえるくらいの大盤振る舞い。ですが、その後、ベンチャーキャピタルから数億円単位のまとまった金額が増資できる可能性が増すこともあり、厳しい条件でも入りたいベンチャーはたくさんいます。

 Y Combintorなどのメジャーインキュベータに入るのはハーバード大学に受かるより難しい、などと噂(うわさ)され、「インキュベータに何度も応募し続けて時間を無駄に過ごすより、一度応募してダメだったらさっさと別の方法で事業を立ち上げよう」なんていうブログが書かれほど。それくらい、「多浪」状態で頑張っているアントレプレナーもいるようです。

インキュベータに入るには

 さて、こうしたインキュベータブログラムは、3か月前後と、日本人だったらビザ免除で米国滞在できる期間で修了可能。ですから日本からでも気軽に応募できます。ただし、数あるインキュベータの中には、「卒業ベンチャーのほとんど、または全部が、その後の増資に失敗」なんていう恐ろしいものもありますので、応募するインキュベータの実績はよく調べてみてください。なお、2011年から2012年にかけての締め切り日のリストを作って公開しているありがたい人もいますので、ご参考まで。http://startupin.me/incubators

渡辺千賀(わたなべ・ちか)
 東京大学工学部卒、米スタンフォード大MBA。三菱商事勤務などを経て、米シリコンバレーでコンサルティング会社Blueshift Global Partnersを経営。ITの戦略立案などに携わるほか、共同で設立したNPOのJapanese Technology Professionals Associationを通じて、シリコンバレーで活躍する日本人のネットワーク強化にも取り組む。ブログ「ON,OFF AND BEYOND」を執筆中


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2012年1月18日  読売新聞)

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