「感動して鳥肌が立つ」という表現は間違い?
本来は誤用も最近では認める辞書も
新明解国語辞典(第6版)で「鳥肌」を引くと、「毛を抜いたあとの、毛穴がぶつぶつ浮いて見える鳥の肌」とあります。
用例として「鳥肌が立つ」を載せていますが、その説明は「急に寒い空気に触れたり恐怖に襲われたりして、皮膚が反射的に収縮し、一種変な気持になる。毛穴がきわ立ってぶつぶつして見える」。これだと、感動した時に使うのは間違いということになります。
広辞苑(第6版)も、「鳥肌が立つ」を「寒さや恐怖・興奮などの強い刺激によって、鳥肌が生ずる。総毛立つ。肌に粟を生ずる」と説明。
ただし「近年、感動した場合にも用いる」とわざわざ補足し、「名演奏に鳥肌が立った」という例を挙げています。
50年以上前に書かれた文学作品に登場する「鳥肌」を調べてみると、例えば太宰治「ヴィヨンの妻」に<その言葉の響きには、私の全身鳥肌立ったほどの凄い憎悪がこもっていました>という一節があります。横光利一、織田作之助らの小説でも「鳥肌が立つ」は、もっぱら寒さ(冷たさ)や恐怖・嫌悪を表していて、感動の表現として用いられた例は見当たりません。
ところが、今の若い人たちの間で「鳥肌が立つ」は、寒い時や怖い時よりも感動した時に使われる場合が圧倒的に多い。「逆転満塁ホームランを見て鳥肌が立った」という風に。それに物言いをつけるウルサ型の中高年も少なくないようですが、強く感動した時に鳥肌が立つことがあるのは誰もが体験する事実。時代とともに、言葉の使われ方が変化するのは当然なのかもしれません。
(調査研究本部主任研究員 永井一顕)
(2011年10月14日 読売新聞)
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