『言わなければよかったのに日記』 深沢七郎著
評・小泉今日子(女優)
ユーモアに救われる
しばらく本を読まなかった。いつも読んだ本をノートに書き出して記録しているが、私の読書ノートの3月と4月には1冊も書かれていない。
4月から始まる舞台の稽古の日々だった。あの日はたまたま稽古がお休みで、のんびりした午後を自室で過ごしていた。揺れ始めた途端に停電になり、復旧したのは12時間後。テレビもラジオもパソコンも使えず情報が断たれた。携帯電話も電池が切れそうで無駄に使えない。日が暮れると暗いし寒いし、布団に潜って朝になるのを待っているしかなかった。そして、朝目が覚めてテレビをつけた時に目にしたあの映像。
余震が続く中、稽古は再開された。昨日まで何も思わずに口にしていたセリフの意味ががらりと違って感じられた。ちょっとした表現が妙に生々しくて口にするのが怖かった。言葉は生き物なのだと改めて思った。こんな時に演劇なんて必要なのだろうか? それでも私達はやるしかない。やり続けたら幕が開いて、気が付けば千秋楽を迎えていた。
5月になってやっと本が読みたいと思った。ずっと前から持っていて、いつか読もうと思っていたこの文庫を本棚から選んだ。『
震災以降、テレビもネットもほとんど見ていなかった。出来るだけ耳を塞いでいたかった。信頼できる言葉だけを探して肩に力が入っていたようだ。昭和の文豪たちが時を越えてやって来て私の肩を優しく
◇ふかざわ・しちろう 1914〜87。作家。山梨県生まれ。著書に『楢山節考』『みちのくの人形たち』など。
中公文庫 629円
- (1)『サ道』 タナカカツキ著 (12月26日)
- (1)『脳の風景 「かたち」を読む脳科学』 藤田一郎著 (12月26日)
- (1)『ハイチ震災日記』 ダニー・ラフェリエール著 (12月26日)
- (1)『悲しみにある者』 ジョーン・ディディオン著 (12月26日)
- (1)『ドストエフスキー』 山城むつみ著 (12月26日)
- (1)『和本のすすめ』 中野三敏著 (12月26日)
- (1)『ピエタ』 大島真寿美著 (12月26日)
- (1)『謎解き 太陽の塔』 石井匠著 (12月26日)
- (1)『道徳・政治・文学論集』 デイビッド・ヒューム著 (12月26日)
- (1)『ペインティッド・バード』 イェジー・コシンスキ著 (12月26日)
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