「超絶刺繍」ロココ〜現代
一針一針の積み重ねが、変化に富んだデザインを生み、華やかさを強調する刺繍。紀元前3000年頃のエジプトの王墓からもビーズ刺繍が出土しているように、古くから服飾文化を支え続けてきた。
そうした手仕事の素晴らしさに触れて、しばしうっとりした。10月12日まで神戸ファッション美術館(神戸市)で開かれている「超絶刺繍」展でのこと。
会場には、18世紀のロココ時代から現代まで、様々な刺繍が施された服飾品約100点が並ぶ。目を引いたのが、ロココ時代に宮廷で用いられた男性のスーツ。袖口や襟元の内側にまで草花柄の刺繍が施され、富と権力の誇示だけでなく、淑女の気を引く装飾としても重宝されたという。
19世紀末以降のオートクチュールに施された刺繍も豪勢だ。例えば、マドレーヌ・ヴィオネのイブニングドレスは、8万個ものビーズを縫い付け、エルザ・スキャパレリのジャケットには、青や赤の色ガラスが縫い込まれている。20世紀後半に入ると、イブ・サンローランが、プラスチック片をラインストーンなどと組み合わせてドレスを輝かせた。
ヨーロッパの刺繍の歴史に影響を与えたというインドの超人的な技術にも驚く。絹サテン地に多色絹糸で刺繍を施した花嫁衣装とギャザースカートは、鑑賞中の女子学生(21)が「プリント柄のよう」と話すほど緻密なデザインだ。
実際、会場では刺繍に熱心に見入る若者の姿が目立つ。女性会社員(29)は「うまく言えないけど、こんな服を着ていた人がうらやましい」。展示品の中には、1点仕上げるのに「1万時間以上を要した」との解説も。お手軽なファストファッション全盛の時代、若者たちは刺繍の見た目の華やかさに加え、そこに封印された膨大な時間と手仕事の痕跡に興味を持つのだろう。(生活情報部 田中洋史)
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