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07 松井秀喜

(10)好調時こそイメージ重視

 たまのオフ。マンハッタンの家でのんびりするのが結構、好きだ。そんなときはDVDで映画を見るより、読書を好む。

 「映画を見るって、エネルギーいる。2時間以上ずっと、見なくちゃいけないから。本ならいつやめてもいいし、いろいろ勉強もできる。表現の仕方とかね。それに、自分で映像化できますからね」

 イメージが大事――。それは打撃で重視していることでもある。

 打席にはワナがある。何も相手が仕掛けてくるものに限らない。ホームベースの上方にある長方形のストライクゾーン。その中にまた、自分が「甘い球」と位置づけるゾーンがある。それが時に変形してしまう。

 「打てている時は広く感じてしまう。それが結構、落とし穴になる。本来、状態がいい時でも悪い時でも、コースいっぱいに来るボールとか、いいボールはいいボールなんだけど」

 7月の月間MVP、そして8月も出場10試合で2本塁打を含む13安打、7打点。それでもまれに、「好球必打」の枠から一歩、踏み越えてしまうのはそんなわけだ。

 例えば8月3日のロイヤルズ戦。1―1の同点で迎えた三回二死二、三塁は勝ち越しの好機。前回の対戦で先制2点打を放っている左腕ペレスに対して、カウント0―2と有利になった。ストレート狙いのところに来た速球は高めのボール球だった。しかし、思わず手が出てしまい、結果は豪快な空振り。これで少しリズムを崩したか、次の速球もとらえ損ね、一ゴロに終わってしまった。

 厳しいコースは決して易しくはならない。時にバットが出てしまい、実際にヒットにできることはあるが、反省の余地がある。「結果が出ている時ほど、自分自身を慎重に見ておいた方がいい。ストライクゾーンのチェックは常にしておかないと」。好調だからこそ陥りやすく、自分で自分を追い込むことにつながるからだ。

 だから、放っておくと勝手にアバウトになる空間を、自分が思い描くゾーンに押し戻していく。確実性の高いバッティングをするために、いかに好球に反応していくか。今はそんな原点回帰の作業を続け、打席に向かっているはずだ。

 ところで、小説好きの彼は原作を読んだら、映画化された作品もほとんど見ないことにしている。登場人物の顔や声はもちろん、場面や風景、色やにおいが自分の頭の中で出来上がっている。そうしていざ、映像が与えられ、主人公が現れると――。

 「がっかりしちゃうことが多い。おまえ、違うだろって」。自分のイメージは大切だ。(小金沢智)

2007年8月14日  読売新聞)
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