(11)内角攻めは怖くないごあいさつ、とでも言うべきか。152キロの初球が、ほとんど顔めがけてやって来た。 8月16日のタイガース戦。ワイルドカードを考えれば、互いにけ落としたい計8戦の初戦だ。先発は昨年のア・リーグ新人王で速球派のバーランダー。昨年のプレーオフで2安打、今春のオープン戦でも弾丸ライナーによる本塁打を浴びせた右腕に、4点を追う一回二死一、二塁という反撃の好機で、公式戦の初対面となった。 いきなりの厳しいボールに、のけぞって難を逃れた。まさか、死球すれすれという意識まではなかったろうが、相手にとって利用しない手はない。2球続いたチェンジアップに、見逃しストライクとファウルで、カウントは早くも2―1となった――。 体を起こし、場合によっては打者心理もかき乱す、きつい内角攻め。が、これは投手側の狙い。奏功するか否かは、打者が決める。 松井はどちらかと言えば、歓迎派。「一瞬危ないと思うけど、来てくれた方がいい。なぜかと言えば、もう来ないと思うから。そういう意味では楽」。相手の攻め手を一つ削除できる。次以降をイメージするうえでのステップにすぎない。 実はこの打席で強く意識させられたのは、ストライクゾーンの広さだけ。見逃した2球目は、外角に大きく外れたのにストライクとコールされた。「ああ、この日はとんでもない所をストライク取るな」。そんな情報をインプットした。 追い込まれてから2球ファウルで粘ると、6球目を左前へ適時打。着実に1点を返す。152キロの外角球はボールにも見えたが、「あの審判だったら絶対にストライクだった」。腕をいっぱいに伸ばして手を出した。ピリピリしたように見えた対決も、冷静だった松井の勝ち。初球の効果は結局、限りなく薄かった。 3割7厘、23本塁打、90打点。もちろん、ここに決められたら、という技術的な泣き所はある。それ以前に、投手・松井が精神的に打者・松井を崩そうとしたら? そんな問いに明言は避けたが、昨年までの同僚で、タイガースに移籍したシェフィールドの名を挙げた。 「全く気にしない選手もいるから。例えばシェフもそう。どこ投げても関係なく、甘い球が来たらガツンと打っちゃう。それができるのは一つの才能。気にするということは、それだけ弱いということだから」 レッズに、アローヨという先発がいる。一昨年までの3年間、レッドソックスに在籍していた。松井には散々で、4二塁打を含む18打数8安打6打点。「色々試したけど、最後の手段は内角を厳しく突くことだった。彼を怒らすことができるかも、と思ったんだ」。右腕はそう打ち明けた。 ただ、当の本人は一言、「うーん、そんな厳しい所を突いてきたかなあ。あんまり記憶にない」。 免疫力。しばし問題発言で物議を醸すシェフィールドと、意外な共通項があるようだ。(小金沢智) (2007年8月28日 読売新聞)
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