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07 松井秀喜

(12)ひざの痛み耐えて正念場

 それは試合前、おなじみの光景になっている。

 練習に先立ち、選手たちは芝生の上でアップを開始する。ぐっと腰を落とし、片ひざを深く曲げ、もう一方の足を伸ばす伸脚運動。55番は一人、中腰のまま。「強く右ひざを曲げないように」。トレーナーから指示が出ているからだ。

 6月下旬に痛み出した右ひざ。試合後には、大きな氷袋をつけて冷やす。「アイシングをすれば結構、治まる」のだが、もちろん“治る”のではない。「きょうはちょっと痛いなとか、全然大丈夫かなとか」。翌日、動いてみて分かる。

 だましだまし、快方に向かってはいるのだろうか。少なくともこれまでの、折れ線グラフは下降気味だ。

 数字は語る。

 守備の負担がないDH。7月の7試合は、8月には後半の4戦連続を含む11回に増え、9月は出場7試合で4回を数える。7月は3割4分5厘、13本塁打でリーグ月間MVP。翌月は2本塁打だったが、3割3分超。そして今月は、24打数でヒットはわずか2本だ。

 数字は残る。試合に出る以上、結果に情状酌量の余地はない。それは本人が分かっている。ひざの影響について、「万全じゃない形で守って迷惑をかけたくない」とDH出場は受け入れている。それでも打線に名を連ねるから、「打つ時には全然問題ない」ときっぱり否定する。逃げ場はない。

 夏は過ぎた。バランス良く自分の間を保ち、打ちにいった7月。「どういうボールにも、ちゃんとバットが出る」。あの感覚は薄れてしまった。実践しづらくなっていると言うべきか。

 9日までの対ロイヤルズ3連戦。1安打だった。7、8月の計2カード7試合では2発を含む9安打8打点。バットの先っぽでとらえた打球や、初球のボール球を空振りする姿に、間近で見た相手捕手のバックは言った。「前と比べて、少しだけボールを追いかけているように見えた。本来はもっと、狙い球を絞ってくる打者なんだが」

 相手も異変を感じたバッティング。「自分の思っているように、動いてくれない。頭と体が一致していないという感じかな」と松井は言う。打席内だけでなく、素振りも同じ。イメージはある。技術面で特段の不満もないが、シーズン終盤を迎え、積み重なった疲労がある。つまり今がそういう時、ということだ。ひざの痛みの影響を、公に認めることはしないだろうが。

 プレーオフ進出へ向け、ワイルドカード争いでは4ゲーム差を付け、少し余裕はできた。だが、頭にあるのは5・5差をはね返す逆転地区優勝だ。正念場の残り19試合。結果に酌量は求めない。だから今、踏ん張りどころだ。(小金沢智)

2007年9月11日  読売新聞)
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