(10)「第2章」へ 納得の復活弾帰って来た手ごわい男。左ひざ痛による2度のリハビリを乗り越えて、19日に合流すると、復帰3戦目にして本塁打を放った。それも、ハラデーからだ。 2003年のサイヤング賞投手で、ブルージェイズのエース右腕。球速は150キロを超え、高速シンカーは一瞬甘いコースと感じても、ボールゾーンへ遠ざかって落ちる。今季もここまで14勝、防御率も2点台。両リーグトップの8完投を誇る。苦手な相手だ。 しかし、少しずつひびを入れた殻に、ぽっかり穴を開けたかもしれない。21日、敵地トロント。ヤンキースは13点差の完敗ムードとはいえ、個人的には絶対攻略したい七回一死一、三塁の第3打席。「三振かダブルプレーを取りたいところ。シンカーの確率が高い」。狙いを絞った。引っかけたゴロにならぬよう、外へ沈んで行く軌道を頭に描く。ボールを長く見て、逆方向へ強く打ち返す――。これまでのハラデー対策をより強く意識した。 3球で窮地に立った。内に入るカットボール2球にカーブが1球。つまりは狙いが外れた。追い込まれ、対応の幅を広げるため、シンカーへの強い意識は薄めた。そうしてボール、ファウル、ファウルと粘る。 今度は相手が考えた。「これまでシンカーを投げ過ぎていた。内に食い込むボールの方がいい」。投げ過ぎ、とは負の記憶だろう。6月3日、前回の対戦で松井はシンカーを狙い打ち、左へ2安打している。勝負の7球目は内角へのカットボール。外に逃げる軌道への意識を薄めていた背番号55は、自然な反応で体をくるりと回す。右翼へ3ランが飛び出した。 対戦打率は2割そこそこ。一昨年にはボールが遠ざかる前にさばくため、打席で投手寄りに出ることも試みた。今度はハラデーが動き、松井がその試みを打ち砕いた。単打2本でまいた種を咲かせた格好の一発長打に、少しだけ胸を張る。「シンカーかカットボールか。どっちを狙ってるんだと、相手が考えることになるかもしれないね」。試合に勝って局面で敗れたハラデーは逆に、「少し違う攻めをしようと思ったんだ」と悔いを残した様子。さらに考えさせられるかもしれない。 難敵への挑戦から対決へ。第2章の始まりを予感させる一発は、自分と首脳陣を納得させる復活弾でもある。「本当にうまく打ったし、いいきっかけになるよね」。2か月のブランク明け。ひざへの不安が消えない一方で、明るい笑顔に安堵(あんど)に似た思いを漂わせた。打撃はさびついていない。2日後には、恩師、長嶋茂雄に並ぶ日米通算444号を打ってみせた。(小金沢智) (2008年8月26日 読売新聞)
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