(11)戦いは続くひざの水抜き、強い薬に替え…左ひざから抜いた水の量は、多い時で市販の栄養ドリンク瓶1本分もあっただろうか。それほどまでに腫れ、何度も抜いた。今でも傷んだ軟骨は関節内に浮いたまま。それでも松井秀喜は、何とか乗り越えて、紙一重の真剣勝負にも打ち勝っている。「体全体の切れがね、なかなかうまく戻らない。100%でない自分で戦うのは難しいよ」。今の状態をそう打ち明ける。 9月2日、敵地セントピーターズバーグ。首位レイズとの大事な3連戦の初戦で、貴重な追加点を挙げた。六回一死一、二塁、横手左腕の中継ぎミラーから、リードを5点に広げる痛烈な中前適時打を放った。切れは欠いても読みは鋭い。 カウント0―1から、逃げていくスライダーを豪快に空振りした。ミスした瞬間、頭の中は急回転する。これだけ大きな空振りをしたら、次は気をつけようとしてくる、相手はそう考えるだろう。横手の相手左腕は対左打者に、クロス気味の外角が基本。よほど制球に自信がなければ内角はない。次は外の速球だ――。 直後、狙い通りのボールをバチン。もう少し、高めに浮いたり、甘く入れば長打になった可能性は高い。8月19日に復帰し、ここ10試合では打率3割1分4厘、7打点。数字は決して悪くない。 最初のリハビリは痛みと腫れが再発し、7月中旬で頓挫していた。「医者に痛み止めを打ってもらっても腫れた。手を尽くした感じはあった」。それでもあきらめず、2度目のリハビリから服用する炎症止めの種類を替えた。胃薬を同時に飲む必要があるほど強い薬。それでも、胃の荒れを感じたこともあった。それを今でも毎日、試合前に飲む。ランニングや患部周辺のトレーニングができない分、腹筋、背筋といった体幹を鍛えたり、バイクをこぐ量を増やした。もう一つの、ぎりぎりの戦いだ。 「(どうして復帰出来たのかと)不思議がる人もたくさんいた。謎の気功師にでも出会ったのかって。そんなのいないよ。でも、何が良かったのか自分でも分からない」 奇跡的復帰は、わずかな可能性を追い求めた執念の成果。チームの14年連続のプレーオフ進出が絶望的となっても、もがき、戦い続ける姿勢は最後まで続く。(小金沢智) (2008年9月9日 読売新聞)
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