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09 松井秀喜

(8)新球場 右翼は狭いが

 ヤンキースタジアムは本塁打の出やすい球場だ。ホームでの52試合を消化した26日の時点で、計161本。すでに昨年の全81試合分を抜いた。

 本塁から右翼ポールまでの95・7メートルは旧球場と同じだが、AP通信は近ごろ、専門家の意見を引用して、「右中間フェンスまでの距離は平均的に短くなった」と報じた。スコアボードを設置したことで扇形の膨らみが減ったことが原因だ。

 松井も認める。「右中間はもっと膨らみがあったし、フェンスは左翼から右翼へ徐々に高くなっていったのに、新球場はそれがない」。右翼ポール際のフェンスも30センチ程度低くなったがこの狭さは、逆に落とし穴にもなりかねない。手元で沈む速球の多い大リーグで、球場が狭くなったからといって何でも強引に引っ張るとゴロの量産、そのまま不振に陥る危険性もあるからだ。

 松井にとって本塁打量産のカギは、あくまでも自己の打撃技術の確立だ。軸足にバランス良く体重を残しながら、右足をステップする段階でボールを見極める。次にトップの位置からシャープに球をたたく。ボールを長く見られる感覚と、鋭くとらえるスイングの連動。この2段階を松井は「勝負の分かれ目」と重視する。

 巨人時代、落合博満(現中日監督)と3年間一緒だった。ロッカールームで、湯船の中で、打撃理論を何度も聞いた。それを自分なりにかみ砕き、イメージを繰り返し描いた末に天才の境地を察した。あの独特のフォームから始まる打撃を、「体重はちゃんと軸足に残り、トップの位置はしっかり決まってる。実はすごくシンプルで理にかなってる」。44歳まで現役を続けた落合は松井にとって、高い技術力の大切さを体現する存在だ。

 20日には右中間席中段へ文句なしのサヨナラ15号を打った。「自分のポイントでとらえれば、勝手にボールは飛んで行くんだ」。松井の本塁打は圧倒的に中堅から右方向に飛ぶ。球場のサイズを意識し過ぎれば、近くなった右翼フェンスはかえって遠くなる。(小金沢智)

2009年7月28日  読売新聞)
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