(9)守れぬつらさ 耐える日々遠征帰りには、ちょっとした試練が待っている。チャーター機がニューヨークの空港に降り立つと、用意されるのは非常階段にも似た粗末で急傾斜の鉄製タラップだ。荷物を抱え、恐る恐る下りる。機上で気圧の変化が影響するのか、左ひざの動きはぎこちない。「脳の信号通りに動いてくれない」感覚だ。 昨秋、痛んだ軟骨を取り除いた患部は回復基調にはある。実戦での走るスピードは上がってきた。それでも、「まだ内部が完璧(かんぺき)じゃない。時間はかかる」と感じている。 開幕から111試合。一度も守備についていない。「試合途中からでも可能性がある」。DH制のない敵地での交流戦を控えた6月中旬。ジラルディ監督から言われたが、結局、実現せずに、守備への言及は途絶えた。完治手前。チームはさらに慎重だ。「やらせる気はもう、ないんだろう」。覚悟だけは寂しく決めたが、守れない二重のつらさに直面している。 1日のホワイトソックス戦。前夜、2安打2四球ながら、先発を外れた。3番テシェイラを休養含みのDHで起用するためだ。 この試合、14失点で敗れた。右前、左前へ許した適時打で、外野から無謀な本塁への送球により、二塁走者を三塁へ、打者走者を二塁へ進めて傷口を広げた。「あーっ」。ため息をつく一方、我が身に置き換えた。「分かる、気持ちは。自分もその場にいたら、無理なのに投げちゃうかもしれない」。見ているしかない立場で心理が揺れ動く。 打席も失う。翌2日はロドリゲスのDHで先発落ち。16号ソロを打った翌5日も、5試合連続安打中の9日も外れた。それでも、「自分が悪い。(昨年)ケガした自分の責任」と言い聞かせ、頻繁に休む難しい役割に臨む。7月以降は3割近い数字を残し始めた。 今春、キャンプ地タンパで始動してから179日。故障には発展させず、「無理せず、過保護にもせず、ひざと対話できるようになってきた」と言う。さざ波立ちそうな内面とも、折り合っている。(小金沢智) (2009年8月11日 読売新聞)
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