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09 松井秀喜

(11)雪辱期すプレーオフ

 手術明けの左ひざは万全ではない。その状態は、久しぶりに運動した大人の多くが、年齢を痛感する瞬間と似ている。体が頭についてこない――。

 「今年、走塁の失敗が2、3回あった」と打ち明ける。例えば9月25日のレッドソックス戦。六回、ポサダの中前打で二塁からホームを狙ったが、三本間に挟まれ、あえなくタッチアウトとなった。この時、「行ける」と脳がゴーサインを出してから三塁ベースを回るまで、冷や汗が増す経過をたどっている。「あれっ、足がついてこない」「タイミングは結構危ない」「あっ、完全にアウトだった」……。

 「打球の判断能力は昔のまま、足の状態が良かったころのまま。でも、今は回転数を上げられないんだ」。筋力が戻っていないうえに、走り出すと怖さでかかるブレーキが加わる。完全復活は来年への課題だ。

 それでも状態は、最後に出たプレーオフである2007年の地区シリーズ当時よりずっといい。痛めた右ひざは夏場以降、悪化の一途をたどった。腫れを抑えるため、初戦の4日前に関節からたまった水を抜いたが、2日後には元通り腫れた。

 悔しさは強烈だった。敗退後にチームを去ったトーリ前監督の配慮を今でも思う。初戦の10月4日、インディアンスの本拠地で大敗。ひざが悪い6番打者の控え降格論も浮上した。しかし、トーリは雑音をシャットアウトし「年間100打点の打者を、ひざ痛で外すことはない」と公言した。2人きりになって、こう言われた。「お前で点を取りたい。だから外さない」。4打数無安打だったのに、第2戦は5番に上がっていた。

 「あの時は俺……」。2年後の今でも、思い返すと一瞬、絶句する。そうして付け加えた。「本当に忘れられない。期待には応えきれなかったけど」。5四球を選んで出塁率4割3分超を残したが、痛みを抱えて打率は2割を切った。痛恨の地区シリーズ敗退だった。

 今年は対照的に、ひざは回復途上にある。前回と異なり、走塁はともかく打撃に大きな影響はない。7日からのプレーオフで3年越しの雪辱を期す。(小金沢智、終わり)

2009年10月6日  読売新聞)
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