「ちょいワル」も見たい新たに4年契約を結んだ昨秋、ドキドキしながら春の訪れを待っていた。「監督に『センター、やらしてほしい』って話すつもりなんだ」。ジョー・ディマジオやミッキー・マントルらが君臨した本拠地のセンターフィールド。伝説の名選手と同じ空気を感じて、プレーしたいと願った。 ところが、球団は中堅手としてジョニー・デーモンを獲得。「センター? 言えるはずないじゃん。駄々こねて、監督を困らせちゃダメでしょ」 小さな野望、あっさり終了。背番号「55」は今年もレフトで、右へ左へと駆け回っている。 ◇ そんな“優等生”が、めずらしく自らの意思にこだわった。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での日本代表入りを、辞退した一件だ。決断に至る過程で、周囲の動きに首をかしげたことも……。 いや、よそう。 「二つの目標を追い、(大リーグの)ワールドチャンピオンという夢がおろそかになるのを恐れた」との理由は真実だし、それを公の場で口にした以上、きっと31歳は、枝葉の部分に触れることを望まない。 ともかく、「先生や親を悲しませたくなくて『いい子』でいる子供の気持ち、分かるよ。どっちかっていうと、おれもそうだった」と明かす“優等生”が、WBC出場を求める、恐らく国内で大勢を占める声に逆らった。もしくは、“優等生”であることを、一時的に放棄した。 日ごろ、「相手や状況に合わせて、いろんな自分になる。それは『人間の幅』っていうか、悪い行為じゃないよね」と考えている。北陸生まれの男は、ふだん、当たり障りのない「松井秀喜」を演じているらしい。しかし、大切なものを守るとき、演じるのをやめる。 「言いたい人は、何だって好きなように言えばいい。おれの判断、間違ってるとは思わない」 抑揚のない口調、色のないまなざし。この表情の出現は、記者に新鮮な驚きを与えた。 ◇ もっと頻繁に、己の定めた枠から、はみ出していい。ファンは多分、そうした姿も楽しんでくれる。 第一、打席での松井秀は全然、素直ではない。 8日のエンゼルス戦、九回に3号本塁打。カウント2―1で、球速150キロの内角球を完璧(かんぺき)にとらえた。 「あの日のバッテリーは、緩い球への対応の仕方を見て、次のボールを決めてたと思うんだ」 敵は知将・ソーシア監督の指示で配球を工夫し、常に打者の意図の裏をかく。 「そう。だからこそ、読める。おれ、3球目のカーブを引っ張ってファウルにしたでしょ。バッターは『ちょっとタイミングが早いな』と考えがちだよね。そこにズバッと速いボールが、しかも内側に来たら、まず手が出ない。伝わってきたよ。えっへっへ」 味方にとっては実に頼もしい、かなりの“ワル”である。(田中富士雄) (2006年4月9日 読売新聞)
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