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チーム安泰「覚悟ある」

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ヤンキースタジアムで練習する松井秀(14日、ニューヨークで)=清水健司撮影

 例えばツツジのように、しなびても、色あせても散るまいと踏ん張る花の姿に美しさを感じる。一方で、満開の余韻に浸らず、平然と花びらを落とす桜の潔さも捨て難い。

 「どっちも好きだよ。野球に結びつけるなら、しぶとくプレーして粘り強く技術を追求して、そうありたい。でも、腹が据わってるという意味ではね、桜みたいな心の準備をしておくべきだと思ってんの」

 心の準備――。

 多分、「覚悟」と言い換えた方がファンに伝わるだろう。

 12日の試合前、ヤンキースのトーリ監督は松井秀の復帰の見通しを尋ねられて、「来季のためにも大切なのは、100%の状態にならなければ使わないことだ」と答えた。

 チームは首位を走っており、22歳のカブレラは左翼手として十分に機能している。首脳陣が背番号「55」の起用をめぐり、慎重論に傾くのも当然だ。

 “レギュラー”の居場所は蜃気楼(しんきろう)のごとく、かすんでいく。ところが、あっけらかんとした口ぶりで「そんなのさ」と切り出した。

 「できることを全部やってダメだったら、しょうがないじゃん」

 実を言うと、かなり前から松井秀は、この種の話題に触れていた。大物が続々と加入し、若手が次々と台頭してくる環境に置かれて、しかし、己はベテランの域に足を踏み入れている。

 「けがしたり、自分より優れた選手が出てきたり……。いつか、そういう日が来る。プレーヤーは、常に覚悟を持ってなきゃなんない。50歳まで現役バリバリでいるのが理想だけどね。なかなか難しいでしょ」

 運命や時の流れに挑むのを、あきらめたんじゃない。ただ、ほんのちょっとの悔いも残さないと誓っただけ。負傷してリハビリテーションに励む今、「試合に出してもらえるかどうか、考える時間なんて無駄。うまくなろうと精いっぱい頑張って、何が起きたって受け入れる。それが、おれにとっての『覚悟』だよ」と、あらためて思う。

 室内練習場で行うティー打撃。相変わらず、ボールが当たる瞬間にバットから左手を放している。「自分の体に対して失礼な話だけど」と笑った。

 「これまでのイメージと違ってくるんだろうし、あんまり(骨折した)左手、あてにしてねえの。まあ、ほかでカバーするしかないよね」

 純粋な向上心が、努力する姿勢を生み、努力が痛ましさとは無縁の、涼やかな覚悟を育てるらしい。

 近ごろ、新しいグラブが手元へ届いた。従来の黄色を「縁起が気になっちゃって」藍色に変えたが、今季は使用しないと決意した。フィールドに立てるなら、予備の黄色いグラブで臨むつもりだ。

 現実から目はそらさないし、悪夢に惑わされることもない――。

 夏、真っ盛り。覚悟は固まった。(田中富士雄)

2006年8月16日  読売新聞)
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