ゴジラ松井、リベンジの年2007年は、松井秀喜(32)(ニューヨーク・ヤンキース)にとって、リベンジのためのシーズンだ。昨年は左手首骨折で戦線を離脱し、復帰して臨んだプレーオフは最初の地区シリーズで敗北。大リーグ挑戦5年目の今季は、悪夢と挫折を乗り越えるための戦いとなる。 ◇ メジャー4年目が終わり、ヤンキースの松井秀は、少し体に休養を与えなければならないと考えていた。左手首の骨折から復帰し、「まったく痛みはない」と公言してシーズン終盤の戦いに加わったが、秋が深まっても患部周辺のしびれが治まらない。関節の違和感も残っていた。 プレーオフ地区シリーズで敗退した翌日、ニューヨークの自宅マンション。「きちんと休んで、まずはリハビリだな」とつぶやき、部屋を見渡した。バットが壁に立てかけてある。気が付くと、舌の根も乾かぬうちに素振りを始めていた。 「ちょっとした思いつきがあったんでね。毎年そうだよ。特別な話じゃない」との言葉が真実だとすれば、無意識のうちに体が動いたのだろう。じっとしていたら恐らく、心にできた“あざ”が、うずくのだ。 5月11日の負傷直後から現実を受け止め、前向きな姿勢に転じた――。この見方は、必ずしも的を射ていない。 例えば、8月3日の定期検査。前回の診察で、すでに「骨は完璧(かんぺき)だ」と伝えられていたため、打撃練習再開を許可されるものと信じていた。しかし、「CTスキャンで調べたところ、骨がくっついていなかった。キャッチボールもダメ」と告げられた。思わずチームドクターに、かみついた。 「じゃあ、今までの検査は何だったんですか。おかしいじゃないですか」 1枚の写真に、当時の心情がにじみ出ている。06年ポストシーズンの球団メディアガイドに掲載された、集合写真。首脳陣、全選手が整然と並ぶ中で、松井秀は最後列の、しかも左端に立っていた。 撮影日は同月14日。 「(自身を隅へ追いやる)そういう気持ち、あったかもね。まだ戻れないと分かって、みんなに申しわけなくて……」 9月12日に再起を果たし、ファンの歓声に感激する一方で、「今季は何もやってないのと同じだな」と、複雑な感情が最後まで胸に焼き付いていた。 07年。「チャンピオンになるって本当に難しい。でも、どうしてもワールドシリーズで勝ちたい。必死で頑張るよ。やれるのは、それだけだから」 屈辱を乗り越えた自らが、歓喜の輪の「ど真ん中」で絶叫するシーンを思い描き、今年も夢へ向かって走る。(ニューヨーク支局・田中富士雄) (2007年1月1日 読売新聞)
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